自治体のローカルLLM。LGWAN閉域・DS-920・「源内」から読む現実解
LGWANの内側で生成AIを使う道は、2026年時点で大きく3つあります。デジタル庁の「源内」、LGWAN対応の閉域SaaS、そして庁内ローカルLLMです。どれを選ぶべきかは、扱う情報の機密性格付けとネットワーク区分でほぼ決まります。「汎用クラウドAIが使えないから諦める」という段階はすでに過ぎており、本記事では3つの選択肢の中身・費用・選び方を、自治体の予算サイクルに合わせた進め方まで含めて整理します。
この記事の要点
- 自治体で生成AIが使いにくい原因は、「三層の対策」(マイナンバー利用事務系・LGWAN接続系・インターネット接続系)というネットワーク区分にあります。ツールの性能の問題ではありません
- デジタル庁のガイドラインDS-920が2026年4月から政府機関に全面適用されました。自治体には直接適用されませんが、機密性格付け(1〜3)と接続して整理するのが早道です
- 閉域で使える選択肢は「源内」「LGWAN対応SaaS」「庁内ローカルLLM」の3つで、機密性区分ごとに使い分けます
- 費用の目安は、LGWAN対応SaaSが初期数十万円+月額数万〜数十万円、庁内ローカルLLMが初期数百万円からです
- 「閉域=学習されない」ではありません。データの保存場所・学習利用の可否は契約で必ず確認します
自治体で生成AIが使いにくかった理由(三層の対策とネットワーク区分)
自治体のネットワークは「三層の対策」で分離されています。総務省の地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドラインが求める構造で、区分は次の3つです。
- マイナンバー利用事務系: 住民基本台帳や税、社会保障など特定個人情報を扱う系統です。最も強く分離されます
- LGWAN接続系: 内部事務や自治体間連携を担う系統で、行政専用の閉域網(LGWAN)に接続します
- インターネット接続系: メールやWeb閲覧、外部SaaSなど、外部とのやり取りに使う系統です
一般的なクラウド生成AIはインターネット接続系にあります。一方、住民情報や内部の非公開資料を扱う業務はLGWAN接続系やマイナンバー利用事務系にあり、そのままでは外部AIにデータを送れません。これが「使いたいのに使えない」の正体で、ツールの良し悪しではなくネットワーク区分の問題です。
裏返せば、インターネット接続系で完結する業務(広報文の下書きや一般的な文章整形など)であれば、契約上データを学習に使わない法人向けクラウドAIを使う余地があります。職員が個人アカウントで無断利用に走る前に、庁内で使える形を用意することが要点です。統制の考え方は「シャドーAI対策・社内AIガバナンス」に整理しています。
2026年のルール: DS-920と機密性格付け(1〜3)の対応
2026年に前提が動きました。デジタル庁のDS-920「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」が、政府機関(国の行政機関)へ2026年4月から全面適用されました。地方公共団体には直接は適用されず「参考とされることを想定」という位置づけですが、自治体が調達・利活用ルールを組み立てる際の事実上の下敷きになります。
DS-920の考え方を一言で表せば「リスクベース」です。情報の重要度に応じて、使ってよい生成AIの形態を分けます。自治体で実装するなら、情報セキュリティポリシーの機密性格付け(機密性1〜3)に接続するのが早道です。
- 機密性3: 秘密文書として扱う情報です。漏えい時の影響が最も大きい区分です
- 機密性2: 情報公開法の不開示情報に該当する蓋然性が高い情報のうち、機密性3以外のものです
- 機密性1: 不開示情報を含まない情報です。公開しても差し支えない範囲です
この格付けとネットワーク区分を生成AIの形態に対応させると、次の表になります。これが本記事の核で、選択肢の議論は全てこの表に帰着します。
| 機密性区分 | 情報の例 | 主なネットワーク区分 | 使える生成AIの形態 |
|---|---|---|---|
| 機密性3 | 特定個人情報、秘密文書 | マイナンバー利用事務系 | 外部送信は原則不可。庁内完結のローカルLLMのみ検討対象 |
| 機密性2 | 答弁案、内部協議資料、非公開の内部文書 | LGWAN接続系 | LGWAN閉域の生成AI(源内/LGWAN-ASP)または庁内ローカルLLM |
| 機密性1 | 広報素材、一般的な文章作成 | インターネット接続系 | 契約で学習利用されない法人向けクラウドAIも選択肢 |
要点は、全業務に同じAIを当てる必要はないということです。機密性1は使い勝手を優先し、機密性2は閉域、機密性3は庁内完結と、段階を分けるのが現実的です。以下、閉域で使える3つの選択肢を順に見ていきます。
選択肢1: デジタル庁「源内」(政府共用の生成AI基盤)
源内は、デジタル庁がガバメントクラウド上に構築した政府共用の生成AI基盤です。汎用型と行政実務特化型のアプリを持ち、法令や官報といった政府共通データセットを活用できます。2025年5月にデジタル庁職員向けに提供が始まり、府省庁へ順次展開されています。
2026年に入って動きが速くなっています。デジタル庁は2026年3月、源内で試用する国産LLM7モデルを選定しました。
| 提供元 | モデル |
|---|---|
| NTTデータ | tsuzumi 2 |
| ソフトバンク | Sarashina2 mini |
| NEC | cotomi v3 |
| 富士通 | Takane 32B |
| Preferred Networks | PLaMo 2.0 Prime |
| KDDI/ELYZA | Llama-3.1-ELYZA-JP-70B |
| カスタマークラウド | CC Gov-LLM |
全39機関・約18万人の国家公務員を対象に、2026年5月から実証が始まりました。各モデルの特徴と選び方は『国産オンプレLLM比較2026。tsuzumi・PLaMo・cotomi・Takaneをどう選ぶか』で詳しく扱っています。
自治体にとって重要なのは、源内が中央府省庁向けから始まっている点です。自治体への展開は2026年度以降で、デジタル庁は源内のソースコードをOSSとして公開し、自治体・民間が共創して各団体へ展開する枠組みを示しています。LGWANから使う「源内 for LGWAN」型のサービスも登場しています。
- 向く業務: 法令・例規の参照を伴う照会、行政文書の下書き、庁内問い合わせ対応
- 現時点の限界: 自治体向けは実証・展開途上です。本格運用の可否と費用は、LGWAN接続方式や既存インフラなど団体の環境で個別に変わります
「国が用意した基盤に乗る」形なので、モデル選定や更新の負担を国側に寄せられるのが利点です。一方で、自治体が自由にモデルや業務データを差し替えられる範囲は提供形態次第です。
選択肢2: LGWAN対応の生成AIサービス(LGWAN-ASP)
もう1つの道が、LGWAN-ASPとして提供される民間の生成AIサービスです。LGWAN内で完結するため、機密性2相当の内部事務まで扱える設計のものが多く、実証環境から試せます。
選定時に外せない観点は、閉域であることと、データが学習に使われないことは別問題という点です。「LGWAN接続だから安全」と早合点せず、契約と仕様で次を確認します。
- 入力データの保存場所と保存期間、消去のタイミング
- 入力・出力をモデルの学習・改善に使わないことが契約で明記されているか
- バックエンドのモデルがどこで動くか(閉域内で完結するか、外部API呼び出しがあるか)
- ログの管理主体とアクセス権
なお「クラウドAI=必ず学習される」という理解は不正確で、法人向けプランやAPIは契約上学習に使わないのが通常です。逆に、閉域SaaSでも契約を確認しない限り安心はできません。この学習利用の線引きは「生成AIの学習利用ポリシー(法人/個人の違い)」で整理していますので、調達仕様書を書く前に一度そろえておくことをおすすめします。
選択肢3: 庁内ローカルLLM(機密性3まで検討できる庁内完結型)
機密性3まで扱いたい、あるいは業務データで独自にカスタマイズしたい場合は、庁内サーバーに日本語オープンモデルを載せる庁内ローカルLLMが選択肢になります。データが庁舎の外に一切出ないことが最大の利点で、マイナンバー利用事務系に近い領域も検討対象に入ります(GPUサーバーでの本格構成による導入はローカルLLM導入支援で扱っています)。
団体の規模によって現実解が変わります。
| 団体規模 | 現実的な構成 | 論点 |
|---|---|---|
| 都道府県・政令市 | 自前のGPUサーバーで本格構築 | 予算・運用人材を確保しやすい。単独調達が成立 |
| 中核市クラス | 中規模構成+一部SaaS併用 | 単独は割高。用途を絞るか広域連携を検討 |
| 小規模町村 | 単独構築は非現実的 | 共同調達・広域連携・国の基盤(源内)に相乗り |
定番のユースケースは、議会・会議の議事録作成、答弁の下書き、そして例規・要綱を根拠にしたRAG(庁内文書を検索して回答する仕組み)による照会対応です。いずれも定型的で件数が多く、閉域で回す価値が出やすい業務です。他業界を含む国内の導入実態は『ローカルLLM国内導入事例2026。8社から見える共通パターン』でも共通パターンを整理しています。
コスト面で効いてくるのが共同調達・広域連携です。GPUサーバーやモデル運用は固定費が大きく、1団体で抱えると稼働率が上がりません。複数団体で基盤を共有して費用を割れば、1団体あたりの負担は下がります。小規模団体ほど、単独構築ではなく相乗りを前提に考えるのが現実的です。
モデル選定では、日本語性能と並んでライセンス条件の確認が必要です。Llama系(ELYZAのモデル等)には月間アクティブユーザー数などの利用条件があり、国産のPLaMoやtsuzumiなどは商用・行政利用の条件を個別に確認します。オープンモデルでも無条件に自由ではない点は、調達前に押さえておきましょう。オープンモデル全体の状況は『オープンLLM勢力図2026。中国勢の攻勢、OpenAIの参入、Metaの離脱』で整理しています。
3つの選択肢の費用比較(初期費用・運用費・立ち上がり)
費用の目安を並べると次の通りです。実額の内訳は『ローカルLLM導入費用の実額内訳。PoC300万円〜本番1,500万円の中身を開示する』で開示していますので、予算要求前に突き合わせることをおすすめします。
| 選択肢 | 初期費用の目安 | 運用費の目安 | 立ち上がりの速さ |
|---|---|---|---|
| 源内(OSS/LGWAN版) | 実証は無償から。本格運用は個別 | LGWAN-ASP型で月額数万円規模から | 速い(実証環境あり) |
| LGWAN対応SaaS | 数十万円から | 月額数万円〜数十万円 | 速い |
| 庁内ローカルLLM | 数百万円から | 保守・電力・運用人件費が継続 | 遅い(調達・構築が必要) |
数字は幅で見てください。ベンダーは削減効果を大きく示しがちですが、独立の立場で見れば、稼働率が低いままではローカル構築は割高になります。判断は「どの業務を、どの機密性区分で、どれだけの頻度で回すか」を先に決めてからです。
予算サイクルに合わせた進め方(ミニ検証→実証→予算化→調達)
進め方は、自治体特有の予算サイクルに合わせます。いきなり本予算で大型調達に行かないことが原則です。
- ミニ検証: 少数の業務で、源内やLGWAN-ASPの実証環境を試します(数週間)
- 実証: 効果と機密性区分の適合を確認し、運用担当と体制を詰めます
- 予算化: 実証結果を根拠に次年度予算へ組み込みます。撤退基準も同時に決めます(決め方は『ローカルLLMのPoCで300万円溶かす前に。始める前に決める撤退基準』を参照してください)
- 調達: 単独か共同調達かを規模で判断し、仕様書に学習利用・データ保存の条件を明記します
導入したローカルLLMを誰が維持するのかは、規模を問わず最大の落とし穴です。運用担当者の当てがないまま構築に進むと、システムは止まります。この点は『導入したローカルLLM、誰が維持するのか。挫折の最大要因は運用担当者問題』で詳しく扱っています。
導入前チェックリスト
調達・予算要求の前に、次の項目が埋まっているかを確認してください。埋まっていない項目は、そのまま調達仕様の穴や運用停止の火種になります。
- 生成AIを使わせたい業務が特定されている(議事録作成・答弁下書き・例規RAGなど)
- その業務データの**機密性格付け(1〜3)**を確認した
- その業務が乗るネットワーク区分(マイナンバー利用事務系/LGWAN接続系/インターネット接続系)を確認した
- 入力データの保存場所・保存期間・消去タイミングを契約確認項目に入れた
- 入力・出力を学習・改善に使わないことが契約で明記されるか確認した
- バックエンドのモデルが閉域内で完結するか(外部API呼び出しの有無)を確認した
- 導入後の運用担当者・体制の当てがある
- 小規模団体の場合、共同調達・広域連携・源内への相乗りを検討した
- 実証の段階で撤退基準を決めた
まとめ
- 自治体の生成AI利用の壁は、ツールの性能ではなく三層分離のネットワーク区分にあります
- 2026年はDS-920が政府機関へ全面適用されました。自治体へは参考扱いですが、情報セキュリティポリシーの機密性格付け(1〜3)に接続して整理するのが早道です
- 閉域で使える選択肢は3つあります。デジタル庁「源内」、LGWAN対応SaaS、庁内ローカルLLMを機密性区分で使い分けます
- 源内は中央府省庁向けから始まり、自治体展開は2026年度以降でOSS公開・共創型です。まず実証環境で試せます
- 「閉域=学習されない」ではありません。契約でデータ保存・学習利用の可否を必ず確認します
- 小規模団体は単独構築より、共同調達・広域連携・国基盤への相乗りが現実解です
よくある質問
Q. 自治体でChatGPTなどのクラウド生成AIは使えますか?
業務が乗るネットワーク区分によります。三層の対策のうちインターネット接続系で完結する業務(広報文の下書きや一般的な文章整形など)であれば、契約上データを学習に利用しない法人向けクラウドAIを使う余地があります。一方、住民情報や非公開の内部資料を扱うLGWAN接続系・マイナンバー利用事務系の業務データはそのまま外部AIに送れないため、源内・LGWAN対応SaaS・庁内ローカルLLMといった閉域の選択肢を検討します。
Q. LGWANの内側で生成AIは使えますか?
使えます。2026年時点の選択肢は3つで、デジタル庁「源内」のLGWAN型サービス(源内 for LGWAN)、LGWAN-ASPとして提供される民間の生成AIサービス、庁内サーバーに日本語オープンモデルを載せる庁内ローカルLLMです。LGWAN-ASP型は機密性2相当の内部事務まで扱える設計のものが多く、実証環境から試せます。
Q. デジタル庁の「源内」とは何ですか?
デジタル庁がガバメントクラウド上に構築した政府共用の生成AI基盤です。汎用型と行政実務特化型のアプリを持ち、法令や官報といった政府共通データセットを活用できます。2025年5月にデジタル庁職員向けに提供が始まり、2026年3月には試用する国産LLM7モデル(NTTデータ tsuzumi 2、ソフトバンク Sarashina2 mini、NEC cotomi v3、富士通 Takane 32B、Preferred Networks PLaMo 2.0 Prime、KDDI/ELYZAのLlama-3.1-ELYZA-JP-70B、カスタマークラウド CC Gov-LLM)が選定され、全39機関・約18万人の国家公務員を対象に2026年5月から実証が始まりました。
Q. 「源内」は自治体でも使えますか?
自治体への展開は2026年度以降です。デジタル庁は源内のソースコードをOSSとして公開し、自治体・民間が共創して各団体へ展開する枠組みを示しており、LGWANから使う「源内 for LGWAN」型のサービスも登場しています。ただし本格運用の可否と費用は、LGWAN接続方式や既存インフラなど各団体の環境で個別に変わるため、まず実証環境で試すのが現実的です。
Q. DS-920は自治体にも適用されますか?
直接は適用されません。DS-920「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」は、政府機関(国の行政機関)へ2026年4月から全面適用されたもので、地方公共団体には「参考とされることを想定」という位置づけです。ただし自治体が生成AIの調達・利活用ルールを組み立てる際の事実上の下敷きになるため、情報セキュリティポリシーの機密性格付け(1〜3)に接続して整理することをおすすめします。
Q. 自治体のローカルLLM導入費用はいくらかかりますか?
庁内ローカルLLMは初期数百万円からで、保守・電力・運用人件費が継続的にかかります。LGWAN対応SaaSであれば初期数十万円から・月額数万円〜数十万円、源内は実証を無償から試すことができ、LGWAN-ASP型では月額数万円規模からです。実額の内訳は『ローカルLLM導入費用の実額内訳』で開示しています。
Q. 小規模な町村でもローカルLLMを導入できますか?
単独構築は現実的ではありません。GPUサーバーやモデル運用は固定費が大きく、1団体で抱えると稼働率が上がらないためです。複数団体で基盤を共有する共同調達・広域連携で1団体あたりの負担を下げるか、国の基盤である源内への相乗りを前提に考えるのが現実解です。
主な参考資料: デジタル庁 DS-920 生成AIの調達・利活用ガイドライン、総務省 地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン、デジタル庁 ガバメントAI「源内」
TodoONadaでは、自治体のローカルLLM・生成AI導入を、三層分離と機密性格付けの整理からお手伝いしています。どの業務をどの区分で回すかの切り分けから、源内・LGWAN-ASP・庁内構築の比較検討までを支援します。まずは30万円・2週間のミニ検証で、庁内で使える形を一緒に見極めます。
この記事に関連するサービス
TodoONada株式会社では、機密データを外部に出さないローカルLLMの導入支援を行っています。
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出典・参照
- 地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン (2026年7月5日確認)
- シャドーAI対策・社内AIガバナンス (2026年7月5日確認)
- DS-920「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」 (2026年7月5日確認)
- ガバメントクラウド上に構築した政府共用の生成AI基盤 (2026年7月5日確認)
- 生成AIの学習利用ポリシー(法人/個人の違い) (2026年7月5日確認)