銀行の本人確認。継続的顧客管理までの全体像

銀行の本人確認。継続的顧客管理までの全体像

銀行・ネット銀行の本人確認は、「口座開設のときにeKYCを通す」だけでは完結しません。開設後も全顧客のリスク格付けと情報更新を回し続ける継続的顧客管理が求められ、さらに2027年4月の犯罪収益移転防止法(犯収法)改正では口座開設eKYCそのものの方式転換が待っています。

本記事は、銀行のシステム・コンプライアンス部門の担当者、および銀行向けシステムの企画・発注に関わる方に向けて、「銀行の本人確認には何が求められ、2027年に何が変わるのか」を一枚で整理します。規制の構造から実務のボトルネック、銀行のKYCが他業種の本人確認の土台になっているという波及構造まで扱います。確認日: 2026年8月23日。

この記事の要点

  • 銀行の本人確認は、犯収法(個別取引のルール)と金融庁マネロンガイドライン(態勢のルール)の二本立てで、口座開設の一回では終わりません
  • 2027年4月の犯収法改正で、口座開設eKYCはIC読み取り・JPKI方式へ移行します。なりすまし口座が特殊詐欺のインフラになってきた経緯から、銀行はこの移行の本丸です
  • 継続的顧客管理の実務は郵送アンケートからアプリ・JPKI再認証へ移りつつあり、初回確認と同じ基盤で回す設計が土台になります
  • 銀行のKYCは自行に閉じず、口座連携方式を通じて他業種の本人確認が依拠する先です。規制強化は銀行から始まって波及します

規制は二本立て。犯収法とマネロンガイドライン

銀行の本人確認まわりの要請は、性質の異なる2つの枠組みで構成されています。この区別が、「eKYCを導入したのにまだやることがあるのか」という社内の混乱を解く鍵です。

枠組み性質求められること
犯収法個別取引のルール口座開設等における取引時確認、確認記録の7年保存、疑わしい取引の届出
金融庁 マネロン・テロ資金供与対策ガイドライン態勢のルールリスクの特定・評価・低減、全顧客のリスク格付け、継続的顧客管理、取引モニタリング

犯収法は「この取引で何を確認するか」という点のルールを定め、ガイドラインは「組織としてリスクをどう管理し続けるか」という線のルールを求めます。FATF第4次対日審査の指摘を受け、金融機関は継続的顧客管理を含む態勢整備を継続的に求められてきました。

つまり「eKYCを導入した=マネロン対応が済んだ」とはなりません。eKYCが解決するのは犯収法側の入口の確認であり、ガイドライン側の態勢整備は導入後も残り続けます。この二本立て構造を押さえずにシステム投資を判断すると、入口だけ立派で継続管理が回らない構成になりがちです。

口座開設eKYC。2027年4月移行の本丸は銀行

現在の銀行・ネット銀行の口座開設は、本人確認書類の撮影画像とセルフィーを送信する方式(現行ホ方式)が主流です。この方式は2027年4月1日以降、新規の本人確認に使えなくなり、ICチップ読み取りやJPKI(公的個人認証サービス)を使う方式へ移行します。「eKYCが廃止される」という言い方は不正確で、廃止されるのは画像送信型という一部方式です。この用語整理は『eKYCとJPKIの違い』で詳しく解説しています。

数ある業種の中で銀行が移行の本丸と言えるのは、廃止の立法事実そのものが銀行口座の問題だからです。偽造書類でホ方式の審査を通過して開設されたなりすまし口座が、特殊詐欺の資金の受け皿として使われてきた。この経緯が画像送信型廃止の直接の背景にあります。

移行の設計論点は他業種と共通ですが、銀行には特有の比重があります。

  • 顧客層の広さ: 全世代が口座開設の対象になるため、マイナンバーカード非保有者・スマートフォン非保有者の受け皿(IC搭載書類による確認、郵送系の方式、店頭)を業種の中で最も厚く設計する必要があります。改正後に使える方式の選択肢は『2027年4月以降も使える本人確認の方式一覧』を参照してください
  • 店頭との二本立て: 改正では対面の本人確認もIC読み取りが原則化されるため、非対面のシステム改修と並行して、店頭の機材・オペレーションの改修が走ります
  • 既存顧客の扱い: 施行前に行った本人確認の記録を改めて取り直す必要はないとされています。一方で、継続的顧客管理の文脈では古い確認情報の更新が別途進行します。この2つは根拠も目的も異なるため、混同せずに計画を分けることが重要です

ベンダーを使って移行する場合の比較・評価の観点は『eKYCサービスの選び方。料金より先に見る20項目』『eKYCベンダー比較』にまとめています。

継続的顧客管理。実務のボトルネックはここにある

ガイドライン対応で最も重いのが、既存顧客を含む全顧客のリスク格付けと定期的な情報更新です。実務上の課題は明確です。

  • 郵送アンケートの限界: 定期的な確認のダイレクトメールは不達・未返送の割合が高く、回収にかかるコストも大きい。紙で回す前提の継続的顧客管理は構造的に息切れします
  • 更新チャネルのアプリ化: アプリ内での属性情報の更新、ログイン動線上での確認、マイナンバーカードによる再認証(JPKI)を使った更新など、非郵送チャネルへの移行が進んでいます
  • 更新とリスク格付けの接続: 更新結果や未応答をリスク評価へ反映し、高リスク化した顧客の取引制限まで業務としてつなげる設計が必要です。情報を集めるだけで格付けに反映されない仕組みでは態勢として機能しません

システムの観点では、初回の口座開設eKYCと開設後の再確認を別々の仕組みで作らず、同じ確認基盤(状態機械)の上で回し、更新履歴を監査可能な形で残す設計が土台になります。初回確認と再確認でベンダーもデータモデルもバラバラという構成は、監査対応のたびに突き合わせ作業が発生する原因になります。なお、確認フローを実装する際につまずきやすいポイントは『eKYCが失敗する30パターン』で層別に整理しています。

銀行のKYCは本人確認エコシステムの依拠先

見落とされがちですが重要な論点として、銀行の本人確認は自行の外でも使われています。

犯収法には、「すでにどこかの銀行で本人確認された口座」への照会や振込を確認手段として使う口座連携方式(現行ト方式、2027年以降は新ニ方式)があります。つまり、他業種の事業者が行うeKYCの一部は、銀行のKYC品質に依拠して成立しています。銀行APIによる口座情報照会や、公金受取口座・口座連携サービスの広がりも、同じ「銀行の確認を信頼の起点にする」構造です。

この構造が意味することは2つあります。

  1. 銀行の確認が甘ければ、そこに依拠するエコシステム全体が甘くなります。銀行のKYC品質は自行のリスク管理を超えた社会的インフラの品質です
  2. だからこそ規制強化は銀行から始まり、他業種へ波及します。2026年の携帯電話不正利用防止法、2027年の犯収法という一連の改正の流れは、この波及の実例です。暗号資産交換業など確認義務の重い他業種の動向(『暗号資産交換業の本人確認』)と並べて見ると、規制の方向性が読みやすくなります

銀行の本人確認・システム投資チェックリスト

2027年改正と継続的顧客管理を見据えた投資判断の前に、次を確認してください。

  • 現行の口座開設eKYCがどの方式(号記号)かを特定し、2027年4月1日以降の可否を確認した
  • マイナンバーカード非保有者・スマホ非保有者の受け皿方式(IC搭載書類・郵送系・店頭)を設計に含めた
  • 店頭のIC読み取り原則化に伴う機材・オペレーション改修を非対面の改修と並べて計画した
  • 施行前の確認記録の扱い(再確認不要)と継続的顧客管理による情報更新を別の施策として区別した
  • 継続的顧客管理の更新チャネルとしてアプリ・JPKI再認証を検討した
  • 初回確認と再確認を同じ確認基盤で回し、更新履歴を監査可能に残す設計になっている
  • 更新結果・未応答がリスク格付けと取引制限に接続される業務設計になっている

まとめ

  • 銀行の本人確認は犯収法(個別取引)とマネロンガイドライン(態勢)の二本立てです。eKYCを導入しても後者の態勢整備は残ります
  • 2027年4月で口座開設eKYCはIC読み取り・JPKI方式へ移行します。なりすまし口座が特殊詐欺に使われた経緯から、銀行はこの移行の本丸です
  • 銀行特有の論点は、受け皿方式の厚さ、店頭改修との並走、既存顧客対応(再確認不要)と継続的顧客管理の区別です
  • 継続的顧客管理は郵送からアプリ・JPKI再認証へ移行が進み、初回確認と同じ基盤で回して監査可能な履歴を残す設計が要になります
  • 銀行のKYCは口座連携方式を通じて他業種の本人確認の依拠先であり、規制強化は銀行発で波及します

よくある質問

Q. 銀行の本人確認にはどのような規制がありますか?

大きく2つあります。犯罪収益移転防止法は口座開設などの取引時確認・確認記録の7年保存・疑わしい取引の届出という個別取引のルールを定め、金融庁のマネロン・テロ資金供与対策ガイドラインはリスクの特定・評価・低減、全顧客のリスク格付け、継続的顧客管理、取引モニタリングという態勢のルールを求めます。eKYCの導入は前者の入口部分に対応するもので、後者の態勢整備は別途残ります。

Q. 2027年4月の犯収法改正で銀行の口座開設はどう変わりますか?

現在主流の「本人確認書類の撮影画像+セルフィー」による方式(ホ方式)が新規の本人確認に使えなくなり、ICチップ読み取りやJPKI(マイナンバーカードの電子証明書)を使う方式へ移行します。対面の本人確認もIC読み取りが原則化されるため、店頭の機材・オペレーション改修も並行して必要になります。

Q. 既存の銀行口座は2027年以降に本人確認をやり直す必要がありますか?

施行前に行った本人確認の記録を改正に伴って取り直す必要はないとされています。ただし、マネロンガイドラインに基づく継続的顧客管理として、古い顧客情報の更新は別の枠組みで進みます。改正対応と継続的顧客管理は根拠も目的も異なるため、区別して計画することが重要です。

Q. 継続的顧客管理とは何ですか?

口座開設時の一回きりの本人確認で終わらせず、全顧客のリスクを格付けし、顧客情報を定期的に更新し、その結果をリスク評価と取引制限に反映し続ける態勢のことです。金融庁のマネロンガイドラインが求めており、FATF第4次対日審査の指摘を受けて金融機関の重点課題になっています。実務では郵送アンケートの回収率の低さがボトルネックで、アプリやJPKI再認証による更新への移行が進んでいます。

Q. なぜ画像送信型eKYCの廃止は銀行が「本丸」と言われるのですか?

廃止の立法事実そのものが銀行口座の問題だからです。偽造書類で画像送信型の審査を通過して開設されたなりすまし口座が、特殊詐欺の資金の受け皿として使われてきました。また銀行は全世代を顧客とするため、マイナンバーカード非保有者などの受け皿設計を最も厚く求められる点でも、移行の中心的な存在です。

Q. 銀行の本人確認は他の業種とどう関係しますか?

犯収法の口座連携方式(現行ト方式、2027年以降の新ニ方式)は、すでに銀行で本人確認された口座への照会・振込を他業種の本人確認手段として使う仕組みです。つまり他業種のeKYCの一部は銀行のKYC品質に依拠しており、銀行の確認品質は本人確認エコシステム全体の土台になっています。規制強化が銀行から始まり他業種へ波及するのはこの構造によります。

主な参考資料: 金融庁 マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン警察庁 犯罪収益移転防止法関係(JAFIC)警察庁 2026年3月公表の改正Q&A(PDF)

TodoONada株式会社では、マイナンバーカード認証(JPKI・eKYC)を組み込んだWebサービス・スマホアプリの受託開発を行っています。犯収法・携帯電話不正利用防止法など業種ごとの本人確認要件の整理から、方式選定(JPKI・IC読み取り・画像方式)、初回確認と再確認を同じ基盤で回す継続的顧客管理まで見据えた確認基盤の設計・開発までワンストップで支援します。料金の目安は認証機能組込みプラン150万円〜、認証込みアプリ開発プラン400万円〜、大規模・個別要件は1,000万円〜です。要件整理の段階からのご相談も、マイナンバーシステム導入支援よりお気軽にお寄せください。


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