eKYCベンダー比較を開発者の目で読む

eKYCベンダー比較を開発者の目で読む

eKYCベンダーの比較記事は世の中に数多くありますが、その多くは営業資料の転載に近く、実装する開発者や発注を判断する担当者が本当に知りたい情報——JPKI対応の中身、APIドキュメントの公開状況、料金の構造——が抜けています。本記事では、2026年7月時点の公式サイト・公式リリースで確認できる情報を、実装と選定の観点から読み直します。

ベンダー選定はシステム開発の発注判断そのものです。「どの製品にするか」の前に「どの観点で比べるか」を持っておくことが、後からの追加費用や作り直しを防ぎます。

この記事の要点

  • 2027年4月の犯収法改正後の主役はJPKI(現行カ方式)です。全ベンダーが「対応」を掲げますが、実装形態(SDK組み込み・アプリ遷移・デジタル認証アプリ連携)で開発量とUXが大きく変わります
  • APIドキュメントを完全公開しているのは調査した中でxIDのみ。他社はNDA後提供が基本で、技術検証の前に契約プロセスが挟まります
  • 料金を公式サイトで公開しているのはLiquid・GMO・ネクスウェイ(一部)。従量単価はおおむね数十円〜百数十円/件のレンジです
  • 「シェアNo.1」は各社とも事実ですが、調査会社・年度・集計単位が異なるため横並び比較には使えません

比較の前に押さえる2つの前提変化

古い比較記事を参照するときは、次の2つの変化を踏まえないと読み誤ります。

1つ目は方式の呼び名の変化です。 犯収法のJPKI方式は、2025年6月の規則改正による号ずれで、旧「ワ方式」が現行「カ方式」と呼ばれるようになりました。2027年4月施行予定の改正で廃止されるのは、現行のホ・リ・ハ・ニの4方式です。内訳は、画像送信型のホ(写真付き書類の画像+容貌の画像)、郵送型のリ(書類の写しの送付+転送不要郵便)、対面のハ(写真なし書類2点の提示)と対面のニ(写真なし書類1点+補完書類の送付)で、廃止されるのは画像方式だけではありません。なお改正後の新規則にもハ・ニという記号は存在しますが、そちらは存続する別の方式を指すため、号記号だけで会話せず方式の中身で確認してください。方式の全体像と廃止スケジュールはeKYCの方式一覧を、施行後に使える方式と移行手順は2027年施行後のeKYC方式一覧と移行チェックリストを参照してください。

2つ目は業界の資本関係の変化です。 顔認証のポラリファイ(Polarify)は、2025年3月にLIQUID eKYCを展開するLiquidの親会社ELEMENTSの連結子会社になりました(SMFG・NTTデータ・Daonから株式取得)。かつての「Liquid対Polarify」という構図は、今や同一グループ内の製品ラインです。

また、よくある混同として、「ProTech ID Checker」はショーケースの製品です。Liquidの製品はLIQUID eKYCであり、別物です。

主要8サービスの比較表(2026年7月時点)

公式サイト・公式リリースで確認できた範囲の整理です。表中の「未確認」は公開情報で確認できなかったという意味であり、非対応を意味しません。

製品(社名)JPKI(カ方式)提供形態料金公開公開開発者ドキュメント
LIQUID eKYC(Liquid)対応SDK(iOS/Android)、Web、API公開(初期5万円/月額3万円+従量50〜150円/件〜)未確認
TRUSTDOCK対応(JPKI SDKあり)API+JSアップローダー、SDK、アプリ連携非公開なし(NDA後提供)
Polarify(ELEMENTS傘下)対応(顔照合オプションあり)SDK(iOS/Android)、API、ブラウザ版非公開未確認
ProTech ID Checker(ショーケース)対応タグ埋め込み型が主軸、外部連携非公開未確認
ネクスウェイ対応(デジタル認証アプリ×TIS協業)クラウド+API、BPOオプション一部公開(初期5万円〜/月額2.5万円〜)未確認
e-NINSHO(NRI)対応(2017年総務大臣認定)クラウド非公開未確認
GMO顔認証eKYC対応(2016年認定)API、メール送信型公開(初期0円/月額2万円〜)未確認
xIDJPKI特化(OIDC準拠)アプリ連携+API、SDK対象API無償(条件付き)公開(api-docs.x-id.me)

比較表の読み方: 差が出る4つの観点

観点1: 「JPKI対応」の実装形態を掘り下げる

2027年4月以降のオンライン本人確認の主役はカ方式(JPKI)です。表の通り全社が「対応」と掲げていますが、その中身は分かれます。SDKで自社アプリに組み込む形か、ベンダー提供のアプリへ遷移させる形か、デジタル庁のデジタル認証アプリを経由する形か(ネクスウェイはTISと協業してこの構成を取っています)で、ユーザー体験と自社側の開発量が大きく変わります。選定の最初の質問は「対応していますか」ではなく「どの形態で対応していますか」であるべきです。

観点2: APIドキュメントが公開されているか

今回調査した中で、APIドキュメントを完全公開しているのはxIDだけでした。他社はNDA締結・問い合わせ後の提供が基本です。これは日本のeKYC業界の構造的な特徴で、発注側にとっては見積もり前に技術検証ができないことを意味します。スケジュールを引く際は、契約プロセスとPoC期間を織り込んでおく必要があります。

観点3: 料金の公開姿勢と比較の仕方

料金を公式サイトで公開しているのはLiquidGMO、一部公開のネクスウェイです。従量単価はおおむね数十円〜百数十円/件のレンジに収まっています。非公開のベンダーと比較する場合は、「初期費用+月額+従量」の3要素に分解し、同じ方式・同じ件数の前提で見積もりを取って並べてください。この3要素での相場観と、件数が伸びたときの損益分岐はeKYC導入費用の相場で詳しく試算しています。

観点4: 「シェアNo.1」は出典年と集計単位を見る

LiquidはITR調査で「eKYC市場シェア7年連続No.1」、Polarifyは「2023年度eKYCベンダーシェアNo.1」をそれぞれ掲げています。どちらも嘘ではなく、調査会社・年度・集計軸が違うだけです。実績の数字も「累計確認件数」(Liquidグループ約1.5億件)、「導入社数」(TRUSTDOCK 250社以上、ショーケース400社突破)と単位がバラバラで、横並びの優劣比較には使えません。選定材料にするなら、必ず出典と集計条件まで確認してください。

発注側がRFP・商談で最初に確認すべき質問

比較表を眺めるだけでは選定は進みません。候補ベンダーに対して、次の質問を最初に投げることをおすすめします。

  • カ方式(JPKI)の実装形態は、SDK組み込み・ベンダーアプリへの遷移・デジタル認証アプリ連携のどれか
  • 2027年4月のホ方式等廃止後の移行プランはあるか(既存のホ方式契約はどう扱われるか)
  • API仕様書・Sandbox環境はどの時点で提供されるか(NDA前提か)
  • 従量単価はいくらか。画像方式とJPKI方式で単価差はあるか
  • 犯収法の確認記録の保存(7年)はどちらが担うか。解約時のデータ引き継ぎ方法はどうなるか

これらは料金表に載らないにもかかわらず総額と運用を大きく左右する項目です。確認すべき観点を網羅的に洗い出したい場合は、eKYCサービスの選び方・20項目チェックリストを質問状のたたき台として使ってください。

まとめ

  • 2027年のJPKI一本化を前提にすると、比較軸の最重要項目は「カ方式の実装形態」です。旧記事の「ワ方式」は現行の「カ方式」を指します
  • PolarifyはELEMENTS(Liquidの親会社)傘下に入り、業界地図が変わりました。ProTech ID Checkerはショーケースの製品で、Liquid製品ではありません
  • APIドキュメントの完全公開はxIDのみ。他社はNDA後提供が基本で、技術検証の前に契約プロセスが挟まることをスケジュールに織り込む必要があります
  • 料金公開はLiquid・GMO・ネクスウェイ(一部)。非公開ベンダーとは「初期+月額+従量」を同一件数前提で見積もり比較します
  • 「シェアNo.1」表記は調査元・年度・単位が各社バラバラです。選定材料にするなら出典まで確認してください

よくある質問

Q. eKYCベンダーを比較するとき、何を見ればよいですか?

料金表の前に、JPKI(カ方式)対応の実装形態(SDK組み込み・アプリ遷移・デジタル認証アプリ連携のどれか)、APIドキュメントの提供条件、2027年改正後の移行プラン、確認記録7年保存の責任分担を確認してください。これらは料金表に載らない一方で、開発量・UX・運用コストを大きく左右します。

Q. JPKI方式(カ方式)に対応しているeKYCベンダーはどこですか?

2026年7月時点の公開情報では、LIQUID eKYC、TRUSTDOCK、Polarify、ProTech ID Checker、ネクスウェイ、e-NINSHO(NRI)、GMO顔認証eKYC、xIDのいずれも対応を掲げています。ただし実装形態はSDK組み込み型からデジタル認証アプリ連携型まで分かれるため、「対応の中身」の確認が必要です。

Q. 料金を公開しているeKYCベンダーはありますか?

公式サイトで料金を公開しているのはLiquid(初期5万円/月額3万円+従量50〜150円/件〜)、GMO顔認証eKYC(初期0円/月額2万円〜)、一部公開のネクスウェイ(初期5万円〜/月額2.5万円〜)です。従量単価はおおむね数十円〜百数十円/件のレンジです。

Q. APIドキュメントを公開しているeKYCベンダーはありますか?

今回調査した8サービスの中で完全公開を確認できたのはxID(api-docs.x-id.me)のみです。他社はNDA締結や問い合わせ後の提供が基本のため、見積もり前に技術検証ができない前提でスケジュールを組む必要があります。

Q. LiquidとPolarifyはどういう関係ですか?

Polarifyは2025年3月に、LIQUID eKYCを展開するLiquidの親会社ELEMENTSの連結子会社になりました(SMFG・NTTデータ・Daonからの株式取得)。かつては競合として語られましたが、現在は同一グループ内の製品ラインです。

Q. eKYCベンダーの「シェアNo.1」表記は信用できますか?

各社の表記自体は事実ですが、調査会社・年度・集計軸がそれぞれ異なります。実績数値も累計確認件数や導入社数など単位が揃っておらず、横並び比較には使えません。選定材料にする場合は出典・年度・集計条件まで確認することをおすすめします。

主な参考資料: LIQUID eKYCTRUSTDOCK 2027年犯収法改正解説PolarifyProTech ID Checkerネクスウェイ eKYCNRI e-NINSHOGMO顔認証eKYCxID APIドキュメント

TodoONada株式会社は、マイナンバーカード認証(JPKI・eKYC)を組み込んだWebサービス・スマホアプリの受託開発を行っています。ベンダー選定の技術評価やRFP作成前の壁打ち、SaaSに乗らない部分の受託開発のほか、デジタル庁「デジタル認証アプリ」の利用申請・審査対応の伴走支援(書類作成から指摘対応まで)にも対応しています。料金の目安は認証機能組込みプラン150万円〜、認証込みアプリ開発プラン400万円〜です。詳しくはマイナンバーシステム導入支援、ご相談はお問い合わせからどうぞ。


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