eKYCとJPKIの違い。「eKYCが廃止される」は誤解です
「2027年にeKYCが廃止されると聞いたが、うちの本人確認はどうすればいいのか」。犯罪収益移転防止法(犯収法)の2027年4月改正をめぐって、こうした相談を受けることが増えました。ベンダーの解説記事にも「eKYC廃止」という見出しが並びますが、この表現をそのまま受け取ると、社内説明や発注の場面で話が噛み合わなくなります。
本記事は、eKYCとJPKIという2つの言葉の関係を整理し、「何が廃止され、何が残るのか」を発注側・事業会社の意思決定者が正確に説明できる状態にすることを目的としています。用語の混乱は見積もりの混乱に直結するため、ベンダーと話す前にここを押さえておく価値があります。
この記事の要点
- eKYCは「オンラインで完結する本人確認」の総称であり、JPKIはその実現方式の1つです。両者は対立概念ではなく包含関係にあります
- 2027年4月の犯収法改正で廃止されるのは、eKYCのうち画像送信型(ホ方式)などの一部方式です。eKYCという仕組み自体は廃止されません
- むしろ改正後の非対面本人確認はJPKI方式が原則となるため、「eKYC廃止」ではなく「eKYCのJPKI化」が実態に近い表現です
- 移行の実務は、eKYCベンダーのプラン切り替えか、JPKI連携の自社組み込みです。いずれも証明書失効・PINロックを前提としたUX設計が新しい論点になります
2つの言葉はレイヤーが異なる
最初に押さえるべきは、eKYCとJPKIが同じ土俵に並ぶ言葉ではないという点です。
- eKYC(electronic Know Your Customer): 非対面の本人確認をオンラインで完結させる手続きの総称です。特定の技術や方式を指す言葉ではありません
- JPKI(公的個人認証サービス): マイナンバーカードに格納された電子証明書を使って本人確認を行う、国が運営する仕組みの固有名です
つまりJPKIは、eKYCを実現するための方式の1つという位置づけです。「eKYCとJPKIのどちらを採用しますか」という問いは成立せず、正しくは「eKYCのうち、どの方式を採用しますか」と問うことになります。この整理ができていないと、ベンダーの提案書に並ぶ「eKYCプラン」「JPKIプラン」という言葉を、別物のサービスとして比較してしまうことになります。
廃止されるのはどの方式か
犯収法の施行規則では、非対面の本人確認方式が号記号(ホ・ヘ・ト…)で列挙されています。eKYCとして使われてきた方式を系統で分けると、2027年4月以降の扱いは次の通りです。
| 系統 | 方式 | 確認の仕組み | 2027年4月以降 |
|---|---|---|---|
| 画像送信型 | ホ方式 | 顔写真付き本人確認書類の撮影画像+セルフィー(容貌)を送信し、目視・AIで照合 | 廃止 |
| IC読み取り型 | ヘ方式 | 本人確認書類のICチップ情報+セルフィーを送信 | 存続 |
| JPKI型 | カ方式(旧ワ方式) | マイナンバーカードの署名用電子証明書で電子署名した情報を送信 | 存続(事実上の本命) |
| JPKI型(スマホ搭載) | ル方式(2025年6月追加) | スマートフォンに搭載した電子証明書(カード代替電磁的記録)で確認 | 存続 |
「eKYC廃止」と呼ばれているものの実体は、この表の1行目、画像送信型(ホ方式)の廃止です。運転免許証を撮影してセルフィーと照合する、現在最も普及している方式が使えなくなります。一方で、ICチップ読み取りやJPKIはeKYCとして存続し、改正後の非対面本人確認はJPKI方式が原則になります。
改正後に使える方式の全体像は『2027年4月以降も使える本人確認の方式一覧』で、現行制度を含む方式の網羅的な整理は『eKYCの方式一覧』で詳しく解説しています。
なぜ画像送信型だけが廃止されるのか
画像送信型とJPKI型の違いは、突き詰めると「何を根拠に本人と判定しているか」の違いです。
- 画像送信型: 「書類の画像が本物に見えるか」「セルフィーと書類の顔写真が同一人物に見えるか」を目視やAIで判定します。判定の本質は画像の見た目です
- JPKI型: マイナンバーカード内の電子証明書による電子署名を暗号学的に検証し、さらにその証明書が失効していないかをJ-LIS(地方公共団体情報システム機構)側に照会します。判定の本質は暗号検証と失効確認です
画像送信型が廃止に至った理由はここにあります。精巧に偽変造された免許証の画像は審査で「本物に見えて」しまい、実際に偽造書類を使った口座開設の事例が報告されています。生成AIの普及で偽造のハードルが下がったことも背景です。これに対して暗号学的な検証は、見た目をどれだけ精巧に似せても原理的に通用しません。偽造できない根拠に確認の軸足を移す、というのが今回の改正の設計思想です。

発注・移行判断への影響
事業会社の立場で「何が変わり、何が変わらないか」を整理すると次のようになります。
変わらないこと
- eKYCベンダーとの契約は引き続き有効な選択肢です。ベンダー各社はJPKI方式(カ方式)のメニューをすでに提供しており、「ホ方式プランからJPKIプランへの切り替え」が典型的な移行パターンです。切り替え時のベンダー比較の観点は『eKYCベンダー比較』と『eKYCサービスの選び方20項目』にまとめています
変わること
- ユーザー体験: 「免許証を撮影する」から「マイナンバーカードにスマホをかざして暗証番号を入力する」へ変わります。撮影より短時間で完了する一方、暗証番号を忘れたユーザーやカード未取得ユーザーの受け皿設計が新たな課題になります
- 開発の前提: JPKI方式は署名用電子証明書を使うため、引っ越し等で証明書が失効するケースや、暗証番号の連続誤りによるPINロックを前提としたフロー設計が必要です。ここを想定していないと、リリース後に「本人なのに確認を通過できない」問い合わせが集中します。つまずきやすいポイントの全体像は『eKYCが失敗する30パターン』で層別に整理しています
- 組み込み方法の選択: eKYCベンダー経由・デジタル庁のデジタル認証アプリ・プラットフォーム事業者との直接契約など、JPKIを自社サービスに組み込むルートは複数あります。それぞれの費用感と選び方は『eKYCの費用。自社開発と外部サービスの比較』で整理しています
社内説明・ベンダー折衝の前チェックリスト
移行の検討を始める前に、次の点を確認しておくと話が早く進みます。
- 自社の現行eKYCがどの方式(号記号)かを契約書・ベンダー資料で特定した
- ホ方式を使っている場合、2027年4月1日以降は新規の本人確認に使えないことを関係部門と共有した
- 現行ベンダーのJPKI方式プランの有無と料金を確認した
- マイナンバーカード未取得・暗証番号忘れユーザーの受け皿方式を検討対象に入れた
- 証明書失効・PINロック時のユーザー導線を要件に含めた
方式・費用・スケジュールを含む移行判断の全体像は『eKYC完全マップ』が起点として使えます。
まとめ
- eKYCは「オンライン本人確認」の総称、JPKIはその方式の1つです。対立概念ではなく包含関係にあります
- 2027年4月の犯収法改正で廃止されるのは画像送信型(ホ方式)等の一部方式であり、eKYC自体は廃止されません
- 改正後の非対面本人確認はJPKI型eKYCに一本化されるため、「eKYC廃止」ではなく「eKYCのJPKI化」が正確な理解です
- 画像送信型は「見た目の照合」、JPKI型は「暗号の検証と失効確認」であり、偽造耐性の差が廃止の理由です
- 移行の実務はベンダーのプラン切り替えか、JPKI連携の自社組み込みです。いずれも証明書失効・PINロックを前提としたUX設計が新しい論点になります
よくある質問
Q. eKYCは2027年に廃止されるのですか?
いいえ、eKYC自体は廃止されません。2027年4月の犯収法改正で廃止されるのは、eKYCのうち本人確認書類の撮影画像とセルフィーを送信する画像送信型(ホ方式)などの一部方式です。ICチップ読み取りやJPKI(公的個人認証サービス)を使う方式はeKYCとして存続し、むしろ改正後の非対面本人確認はJPKI方式が原則になります。
Q. eKYCとJPKIの違いは何ですか?
eKYCはオンラインで完結する本人確認の総称で、JPKIはマイナンバーカードの電子証明書を使って本人確認を行う国の仕組みの名前です。JPKIはeKYCを実現する方式の1つであり、対立する概念ではありません。「eKYCかJPKIか」ではなく「eKYCのうちどの方式を使うか」が正しい問いの立て方です。
Q. ホ方式とは何ですか?なぜ廃止されるのですか?
ホ方式は、顔写真付き本人確認書類の撮影画像とセルフィー(容貌の画像)を送信し、目視やAIで照合する犯収法上の本人確認方式です。判定の根拠が「画像の見た目」であるため、精巧に偽造された書類画像を見破れず、実際に偽造書類による口座開設事例が報告されました。生成AIで偽造のハードルが下がったことも背景に、2027年4月で廃止されます。
Q. JPKI方式の本人確認は何が優れているのですか?
マイナンバーカード内の電子証明書による電子署名を暗号学的に検証し、あわせて証明書の失効の有無をJ-LIS側に照会するため、画像の偽造が原理的に通用しない点です。画像送信型が「本物に見えるか」を判定するのに対し、JPKI型は暗号検証と失効確認という技術的に検証可能な根拠で本人性を確認します。
Q. いま使っているeKYCベンダーとの契約はどうなりますか?
契約自体は引き続き有効な選択肢です。ベンダー各社はJPKI方式(カ方式)のメニューをすでに提供しており、ホ方式プランからJPKIプランへの切り替えが典型的な移行パターンです。切り替えの際は、JPKI方式の料金体系や、マイナンバーカード未取得ユーザーの受け皿方式の有無を確認することをおすすめします。
Q. JPKI方式に移行するとユーザー体験はどう変わりますか?
「免許証を撮影する」操作が「マイナンバーカードにスマホをかざして暗証番号を入力する」操作に変わります。撮影より短時間で完了する一方、暗証番号忘れやPINロック、引っ越しによる証明書失効、カード未取得ユーザーへの対応が新しい課題になるため、これらを前提としたフロー設計が必要です。
主な参考資料: TRUSTDOCK 改正犯収法の本人確認手法解説、Liquid ホ方式廃止後のeKYC、公的個人認証サービス ポータルサイト
TodoONada株式会社では、マイナンバーカード認証(JPKI・eKYC)を組み込んだWebサービス・スマホアプリの受託開発を行っています。方式選定(JPKI・IC読み取り・画像方式)から開発・運用までのワンストップ支援に加え、デジタル庁「デジタル認証アプリ」の利用申請・審査対応も書類作成から指摘対応まで伴走します。料金の目安は認証機能組込みプラン150万円〜、認証込みアプリ開発プラン400万円〜です。「うちのeKYCは2027年以降どうなるのか」という現状整理の段階からのご相談も、マイナンバーシステム導入支援よりお気軽にお寄せください。
この記事に関連するサービス
TodoONada株式会社では、マイナンバーカード認証を組み込んだシステム開発を行っています。
- マイナンバーシステム導入支援 — JPKI・eKYC対応の本人確認をワンストップで
導入・開発のご相談はお問い合わせからお気軽にどうぞ。検討段階のご相談も歓迎です。
出典・参照
- 改正犯収法の本人確認手法の解説(TRUSTDOCK) (2026年7月5日確認)
- ホ方式廃止後のeKYCの解説(Liquid) (2026年7月5日確認)
- 公的個人認証サービス ポータルサイト (2026年7月5日確認)