eKYCの方式一覧。ホ・ヘ・ト・ル・カ方式の早見表と2027年の廃止スケジュール
eKYCの検討を始めると必ずぶつかるのが、「ホ方式」「ヘ方式」といった犯罪収益移転防止法(犯収法)施行規則の号記号です。この呼び方は条文の枝番をそのまま使っているため直感的に分かりにくいうえ、2025年6月の改正で号がずれ、JPKI方式は「ワ方式」から「カ方式」に名前が変わりました。検索結果には旧記号の記事と新記号の記事が混在しており、同じ方式が別の名前で呼ばれている状態です。
本記事では、金融庁の参考資料と警察庁の改正Q&A(2026年3月公表)を正として、オンラインで完結できる本人確認方式の一覧と、2027年4月1日の改正でどの方式が残るのかを早見表で整理します。eKYC導入の方式選定やベンダーとの打ち合わせで、条文の号を正確に読み解くための参照資料としてお使いください。法令確認日: 2026年8月23日。号記号は改正のたびに動くため、本文では「方式の中身 + 適用期間 + 号記号」で表記します。
この記事の要点
- オンライン完結の本人確認方式は、個人向けが現行のホ・ヘ・ト・ル・カ・ワ/ヨ方式、法人向けが3号ロ・ホ方式です
- 2027年4月1日に画像方式(現行ホ)が廃止され、ト方式も画像の選択肢が外れます。書類の画像送信はなくなり、IC読み取りと電子証明書(JPKI)に収斂します
- 号記号は2025年6月に一度ずれ(旧ワ→現カ)、2027年4月にもう一度ずれます(現カ→新規則ヌ)。号だけで覚えず「方式の中身」で管理するのが安全です
- 改正の影響はオンラインだけでなく、対面(IC読み取り必須化)や郵送系(廃止・統合)にも及びます
個人顧客向けオンライン完結方式の早見表
犯収法施行規則6条1項1号に定められた、個人顧客向けのオンライン完結方式を一覧にします。
| 現行の号記号 | 方式の内容 | 2027年4月以降 |
|---|---|---|
| ホ | 写真付き本人確認書類の画像 + 容貌(セルフィー)の画像 | 廃止(画像方式として削除) |
| ヘ | 写真付き本人確認書類のICチップ情報 + 容貌の画像 | 存続(新規則ではハ) |
| ト(1) | 書類の画像またはICチップ情報 + 銀行等への顧客情報の照会 | 存続(新規則ではニ。画像は不可となり、IC読み取りのみ) |
| ト(2) | 書類の画像またはICチップ情報 + 顧客名義口座への振込み | 存続(同上) |
| ル | カード代替電磁的記録(スマホ搭載のマイナンバーカード機能) | 存続(新規則ではト) |
| カ(旧ワ) | JPKI: マイナンバーカードの署名用電子証明書 | 存続(新規則ではヌ。事実上の本命) |
| ワ・ヨ | 民間事業者発行の電子証明書(電子署名法の認定認証事業者等) | 存続(号記号は繰り上がり) |
国内のeKYCで現在最も普及しているのは、免許証を撮影してセルフィーと照合するホ方式です。これが2027年4月1日で使えなくなり、ト方式からも「書類の画像」の選択肢が外れてICチップ読み取りが必須になります。つまり改正後の世界では、書類の画像を送信する確認方法そのものが存在しなくなり、IC読み取りか電子証明書(JPKI等)だけが残ります。
なお「eKYCが廃止される」という言い方を見かけますが、これは不正確です。廃止されるのは画像送信型の方式であって、eKYC全体ではありません。この誤解の整理はeKYCとJPKIの違いで詳しく解説しています。用語や部品レベルからeKYCの全体像を掴みたい場合はeKYC完全マップ2026から読むことをおすすめします。
号記号は2027年4月にもう一度ずれる
方式選定の実務で最も事故が起きやすいのが、号記号の変遷です。2027年4月1日には2本の改正が同日に施行され、号記号がさらに動きます。JPKI(公的個人認証)を例にすると次のとおりです。
| 適用期間 | 公的個人認証の号記号 | 記事・社内文書での推奨表記 |
|---|---|---|
| 2025年6月23日まで | ワ | 公的個人認証(当時のワ方式) |
| 2025年6月24日〜2027年3月31日 | カ | 公的個人認証(現行カ方式) |
| 2027年4月1日以降 | ヌ | 公的個人認証(新規則第6条第1項第1号ヌ) |
主要な非対面方式の新旧対照は次のとおりです。
| 方式の中身 | 現行(2026年8月時点) | 2027年4月1日以降 |
|---|---|---|
| 容貌の撮影 + 写真付き本人確認書類の画像 | ホ | 削除(廃止) |
| 容貌の撮影 + ICチップ情報 | ヘ | ハ |
| ICチップ情報 + 既存口座への照会/少額振込等 | ト | ニ |
| 原本送付またはIC + 転送不要郵便等 | (郵送系) | ホ |
| カード代替電磁的記録(スマホ搭載) | ル | ト |
| 公的個人認証(署名用証明書 + 電子署名) | カ | ヌ |
とくに紛らわしいのが「ホ」です。現行の「ホ」は画像方式ですが、新規則の「ホ」は原本送付・郵便系のまったく別の方式を指します。「ホ方式 = 画像方式」と固定して覚えていると、施行後の条文や解説を読み違えます。社内の要件定義書や規程では号記号だけで書かず、「方式の中身 + 適用期間」を併記して管理してください。

各方式の特徴と実装上の位置づけ
早見表の各方式を、発注・実装の観点から補足します。
- ホ方式: 2018年11月の改正で登場し、eKYC普及の立役者となった方式です。書類の「厚みその他の特徴」の撮影まで求められますが、偽造書類の画像を見抜けないという構造的な限界が廃止の理由です
- ヘ方式: 書類のICチップ(免許証・在留カード・マイナンバーカード等)を読み取るため書類偽造には強い一方、容貌画像との照合は残ります
- ト方式: 書類確認に「既存の銀行口座」を組み合わせる方式です。銀行APIでの照会(ト(1))か、顧客口座への少額振込の確認(ト(2))で成立します
- ル方式: 2025年6月24日の改正で追加された最も新しい方式です。スマホに搭載したマイナンバーカード機能(カード代替電磁的記録)から氏名・住所・生年月日・顔写真を送信します。送信・確認には内閣総理大臣の認定を受けたプログラムを使う必要があります
- カ方式(旧ワ方式): JPKIです。署名用電子証明書で電子署名された取引情報を送信し、事業者側は署名検証とJ-LISへの失効確認を行います。証明書の検証には認定の取得、または認定事業者(プラットフォーム事業者)との契約が必要です
- ワ・ヨ方式: マイナンバーカード以外の、民間の認定認証事業者が発行した電子証明書を使う方式です。利用者が事前にその証明書を保有している必要があり、一般消費者向けサービスでは事実上使われていません
どの方式を軸に据えるかは、対象ユーザーのマイナンバーカード保有状況や取得したい情報によって変わります。ベンダー製品を比較する際の観点はeKYCベンダー比較を開発者の目で読むとeKYC選定の20項目チェックリストを参照してください。
法人顧客向けのオンライン完結方式
法人の本人特定事項の確認にも、オンライン完結の方式が用意されています(施行規則6条1項3号)。
- 3号ロ: 登記情報提供サービスの登記情報を使う方式です。法人の名称・本店所在地の申告を受け、事業者側が登記情報を確認します
- 3号ホ: 電子認証登記所(商業登記電子証明書)発行の電子証明書を使う方式です
いずれの場合も、取引担当者(実際に手続きする自然人)の本人確認は別途必要です。法人口座の開設フローを設計する際は、「法人の確認」と「担当者個人の確認」の2本立てになることを前提に画面遷移と記録項目を設計してください。
2027年改正の影響はオンラインだけではない
非対面(オンライン)方式の廃止が注目されがちですが、2027年4月の改正は対面・郵送にも及びます。
- 対面のイ方式: 「写真付き書類の提示」だけでは不可になり、ICチップの読み取りが必須化されます
- 郵送系のハ・ニ方式: 廃止され、対象書類を限定した新方式に統合されます
- 非対面のリ方式(複数書類の写しの送付): 廃止されます
「うちは窓口があるからオンラインの改正は関係ない」とはなりません。店頭での確認フローや機材(ICリーダー)も見直しの対象です。施行後の方式一覧と、棚卸しから切り替えまでの具体的な移行手順は2027年施行後のeKYC方式一覧と移行チェックリストにまとめています。
古い記事を読むときの注意。号記号は2025年6月にずれた
2025年6月24日の改正でル方式が挿入され、以降の号記号が繰り下がりました。代表例がJPKIで、旧ワ方式 → 現カ方式に変わっています。2025年前半までの解説記事は旧記号のままのものが多いため、「ワ方式」と書かれていたらJPKIのことだと読み替えるのが安全です。さらに前述の新旧対照表のとおり、2027年4月1日にもう一度ずれます(JPKIは現行カ → 新規則ヌ)。本記事は現行の記号で統一し、2027年4月以降の号は「新規則ヌ」のように併記しています。
方式選定前の確認チェックリスト
早見表を実務に落とすためのチェック項目です。ベンダーとの打ち合わせ前に埋めておくと、提案の比較がしやすくなります。
- 自社の現行の本人確認がどの号の方式かを特定した(ホなのか、ヘなのか、トなのか)
- その方式が2027年4月以降も存続するかを新旧対照表で確認した
- 移行先候補の方式で対象ユーザーが手続きできるか(マイナンバーカード保有率、IC読み取り可能なスマホの普及度)を検討した
- マイナンバーカードを持たないユーザー向けの受け皿方式(免許証等のIC読み取り、郵送系、対面)を用意した
- 法人取引がある場合、法人の確認と取引担当者の確認の両方をフローに含めた
- 社内文書の方式表記を**「中身 + 適用期間 + 号記号」**に統一した
まとめ
- オンライン完結の本人確認方式は、個人向けが現行のホ・ヘ・ト・ル・カ・ワ/ヨ方式、法人向けが3号ロ・ホ方式です
- 2027年4月1日で画像方式(現行ホ)が廃止され、ト方式も画像不可になります。書類の画像送信はなくなり、IC読み取りと電子証明書(JPKI)に収斂します
- 号記号は2025年6月(旧ワ→現カ)に続き、2027年4月にも動きます(現カ→新規則ヌ)。号だけでなく方式の中身と適用期間で確認してください
- 新規則の「ホ」は現行の画像方式とは別物(郵送系)です。施行後の条文読解で最も誤読しやすいポイントです
- 改正は対面(IC読み取り必須化)・郵送系(廃止・統合)にも及ぶため、窓口を持つ事業者もフローと機材の見直しが必要です
よくある質問
Q. eKYCのホ方式とは何ですか?
犯収法施行規則6条1項1号ホに定められた、写真付き本人確認書類の画像とセルフィー(容貌の画像)を送信して確認する方式です。免許証を撮影して自撮りと照合する、現在最も普及しているeKYCがこれに当たります。2027年4月1日の改正で廃止されるため、ICチップ読み取り系またはJPKIへの移行が必要です。
Q. ホ方式はいつ廃止されますか?
2027年4月1日です。同日に施行される犯収法施行規則の改正で、書類の画像を送信する確認方法が削除されます。ト方式からも画像の選択肢が外れ、ICチップ読み取りが必須になります。移行の方針決定は2026年内が現実的なデッドラインです。
Q. eKYCのカ方式(JPKI)とは何ですか?
マイナンバーカードの署名用電子証明書を使う公的個人認証の方式です。電子署名された取引情報を受け取り、事業者側で署名検証とJ-LISへの失効確認を行います。2025年6月の改正前は「ワ方式」と呼ばれており、2027年4月以降は新規則の「ヌ」に移ります。書類偽造に対して暗号学的に最も強い方式で、改正後の事実上の本命とされています。
Q. 2027年4月以降も使えるeKYC方式はどれですか?
非対面では、ICチップ + 容貌撮影(新規則ハ)、ICチップ + 銀行口座の照会/振込(新規則ニ)、原本送付・郵便系(新規則ホ)、スマホ搭載のマイナンバーカード機能(新規則ト)、公的個人認証JPKI(新規則ヌ)が使えます。書類の画像を送信する方式だけがなくなります。
Q. eKYCの号記号が記事によって違うのはなぜですか?
2025年6月24日の改正でル方式が挿入され、以降の号記号が繰り下がったためです。たとえばJPKIは旧ワ方式から現カ方式に変わりました。さらに2027年4月1日の改正でもう一度ずれます(現カ→新規則ヌ)。古い記事で「ワ方式」とあればJPKIのことだと読み替え、号記号ではなく方式の中身で確認するのが安全です。
Q. 法人のeKYC(オンライン本人確認)はできますか?
できます。犯収法施行規則6条1項3号に、登記情報提供サービスの登記情報を使う方式(3号ロ)と、商業登記電子証明書を使う方式(3号ホ)が定められています。ただし法人の確認とは別に、実際に手続きをする取引担当者(自然人)の本人確認が必要です。
主な参考資料: 金融庁 犯罪収益移転防止法におけるオンラインで完結可能な本人確認方法の概要(PDF)、警察庁 2026年3月公表の改正Q&A(PDF)、警察庁 犯罪収益移転防止法の改正資料一覧、TRUSTDOCK 改正犯収法の本人確認手法解説、TMI総合法律事務所 犯収法施行規則改正ブログ
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出典・参照
- 金融庁 犯罪収益移転防止法におけるオンラインで完結可能な本人確認方法の概要(PDF) (2026年8月23日確認)
- 警察庁 2026年3月公表の改正Q&A(PDF) (2026年8月23日確認)
- 警察庁 犯罪収益移転防止法の改正資料一覧 (2026年8月23日確認)
- TRUSTDOCK 改正犯収法の本人確認手法解説 (2026年8月23日確認)
- TMI総合法律事務所 犯収法施行規則改正ブログ (2026年8月23日確認)