eKYC導入費用の相場。SaaSの従量課金と自社開発の損益分岐点を考える
eKYC(オンライン本人確認)の導入費用を調べようとベンダーの料金ページを開くと、その多くは「料金はお問い合わせください」で終わっています。相場感を持たないまま1社にだけ問い合わせてしまうと、提示された見積もりが高いのか安いのかを判断する物差しがありません。
本記事は、eKYCの導入を検討している事業会社の担当者・意思決定者向けに、公開情報から読み取れる費用相場を整理し、そのうえで「SaaSを使い続けるか、自社開発(プラットフォーム事業者との直接契約)に切り替えるか」を判断するための損益分岐の考え方をまとめます。2027年4月に施行が予定されている犯罪収益移転防止法の改正では、書類撮影型の画像方式が廃止され、マイナンバーカードを使うJPKI方式への移行が必要になる事業者が多数あります。どうせ改修が必要になるこのタイミングは、費用構造そのものを見直す好機です。
この記事の要点
- eKYC SaaSの相場は、初期費用が無料〜数百万円、月額固定費が2〜10万円程度、従量課金が1件あたり50〜300円程度です
- 月間数百件まではSaaSの費用感は業務システム1サービス分に収まります。月間1万件を超えると従量課金が年間数千万円規模になり、自社開発が検討圏に入ります
- SaaSから自社開発への損益分岐は、開発費の額よりも「1件あたりの単価差×件数」で決まります
- 2027年の犯収法改正対応で改修するなら、本人確認モジュールを疎結合に設計しておくと将来の乗り換えコストが下がります
SaaS利用時にかかる4種類の費用
eKYC SaaSの費用は、公開情報を整理すると次の4項目に分かれます。
| 費用項目 | 相場 | 補足 |
|---|---|---|
| 初期費用 | 無料〜数百万円 | 5万円程度から始められるサービスもあります |
| 月額固定費 | 2〜10万円程度 | 月額2.2万円・50件からのプラン例もあります |
| 従量課金 | 1件あたり50〜300円程度 | 方式・オプションで変動します |
| 目視確認のBPO | 1件あたり150〜700円程度 | 審査業務ごと外注する場合の加算です |
このうち総額を最も左右するのは従量課金です。従量単価は、本人確認の方式(書類撮影による画像方式か、ICチップを読み取るJPKI方式か)、OCRや反社チェックといったオプションの有無、そして月間件数に応じたボリュームディスカウントで変わります。多くのベンダーが「個別見積もり」としているのはこの変動要素の多さが理由で、正確に比較するには、同じ方式・同じ件数の前提を揃えて複数社から見積もりを取るしかありません。方式ごとの違いと2027年の廃止スケジュールはeKYCの方式一覧で整理しています。
なお、料金を公式サイトで公開しているベンダーは少数派です。どの社が公開していて、非公開の社とどう比較すべきかはeKYCベンダー比較を開発者の目で読むで扱っています。
年間コストを決めるのは件数(試算表)
自社の場合の年間コストをイメージするために、「月額固定5万円+1件150円」という相場の中間的な条件を置いて試算します(あくまで相場中央値での概算です)。
| 月間件数 | 年間の従量課金 | 年間合計(月額固定込み) |
|---|---|---|
| 100件 | 18万円 | 78万円 |
| 1,000件 | 180万円 | 240万円 |
| 10,000件 | 1,800万円 | 1,860万円 |
| 50,000件 | 9,000万円 | 9,060万円 |
この表から読み取れる判断の目安は明快です。
- 月間数百件まで: 年間で見ても数十万〜百万円台であり、業務システムの1サービス分の費用感に収まります。この規模で自社開発を検討する理由はほぼありません
- 月間1,000件前後: 年間200万円台。まだSaaSが合理的ですが、成長曲線次第では将来の移行を視野に入れた設計を考え始める段階です
- 月間1万件超: 従量課金だけで年間数千万円規模になり、費用構造そのものが経営の論点になります。直接契約+自社開発の検討圏です
自社開発(直接契約)に切り替えた場合の費用構造
SaaSを使わない選択肢とは、JPKIのプラットフォーム事業者(主務大臣の認定を受けた事業者)と直接契約し、本人確認フローを自社のシステムに組み込む方法を指します。この場合の費用は次の3つで構成されます。
- 開発費: マイナンバーカードのNFC読み取り(アプリ側)、署名検証の連携、エラー・失効時のフロー、管理画面の構築。規模により数百万〜数千万円
- プラットフォーム事業者との契約費: 固定費+従量課金。条件は事業者と件数によって大きく異なります
- 保守・運用費: 自社で持つか、開発会社と保守契約を結ぶかのいずれかです
SaaSの手軽さと引き換えに、UXの設計自由度と1件あたり単価の圧縮余地を得る、という構造です。JPKIそのものの仕組みと「eKYCとJPKIはどう違うのか」はeKYCとJPKIの違いで解説しています。
損益分岐点の計算式と、その読み方
SaaS継続か自社開発かの分岐は、次の式で概算できます。
回収に必要な件数 = 開発費 ÷ (SaaSの1件単価 − 直接契約の1件単価)
具体例で見てみます。開発費1,000万円、SaaS単価と直接契約単価の差が1件100円なら、回収に必要なのは10万件です。月間1万件のサービスであれば10ヶ月で回収できます。ところが単価差が1件30円しかなければ、必要件数は33万件に跳ね上がり、回収には3年近くかかります。
つまり、この計算の主役は開発費ではありません。「単価差×件数」が分岐を決めます。発注者としてまず確認すべきは開発会社の見積もりではなく、プラットフォーム事業者側の従量条件です。ここが分からないうちは、損益分岐の計算は始められません。

金額以外に判断を左右する4つの要素
損益分岐点だけで決めると失敗します。実際の意思決定では、次の4つが金額と同等以上に効いてきます。
- UXの自由度: SaaSのSDK画面で申込フローの離脱率が問題になっているなら、自社フロー化そのものに売上インパクトがあります。開発費を「離脱率改善への投資」として評価できるかが論点になります
- 既存システムとの統合度: 会員基盤・審査業務・CRMと本人確認結果を深くつなぐ要件があるなら、自社実装のほうが総コストで安くつくことがあります
- 社内体制: 本人確認は止められない機能です。障害対応と法改正への追随を自社で持てるか、あるいは保守を任せられる開発会社がいるかを先に確認してください
- 期限: 2027年4月の犯収法改正への対応だけが目的なら、SaaS導入が最短です。自社開発は並行して進める性質のものです。施行後に使える方式と移行手順は2027年施行後のeKYC方式一覧と移行チェックリストにまとめています
現実的に取りやすいのは、「2027年対応はSaaSで済ませ、件数が伸びた段階で直接契約+自社フローへ移行する」という二段構えです。この移行を見据えるなら、最初の改修時点で本人確認モジュールを疎結合にしておくことが重要です。本人確認部分が会員登録フローや基幹システムと密結合していると、後の乗り換えコストが跳ね上がります。
発注前チェックリスト
見積もり依頼やRFPを出す前に、次の項目が埋まっているかを確認してください。空欄のまま進めると、見積もりの比較ができず、契約後の追加費用の火種になります。
- 月間の本人確認件数の予測がある(現在値と1〜3年後の見込み)
- 必要な確認方式を特定した(2027年以降も使える方式か)
- 従量単価を方式別・オプション別に分解した見積もりを依頼している
- 目視審査(BPO)の要否と、その加算単価を確認した
- 複数社に同一条件(方式・件数・オプション)で見積もりを依頼している
- 将来の自社開発移行に備え、疎結合な設計を改修要件に含めた
- 損益分岐の試算に使うプラットフォーム事業者の従量条件を確認した
- 料金表に載らない項目(データ保存・解約条件など)を確認した(確認観点はeKYCサービスの選び方20項目を参照)
まとめ
- eKYC SaaSの相場は、初期費用が無料〜数百万円、月額2〜10万円程度、従量課金が1件50〜300円程度です。総額を左右するのは従量課金です
- 月間数百件まではSaaS一択です。月間1万件を超えると従量課金が年間数千万円規模になり、直接契約+自社開発が検討圏に入ります
- 損益分岐は開発費ではなく「単価差×件数」で決まります。プラットフォーム事業者の従量条件の確認が最初の一歩です
- 金額以外では、UXの自由度・既存システムとの統合・社内体制・2027年の期限が判断を左右します
- 2027年対応の改修時に本人確認モジュールを疎結合にしておくと、将来の移行コストが下がります
よくある質問
Q. eKYCの導入費用はいくらかかりますか?
SaaSを利用する場合、公開情報ベースの相場は初期費用が無料〜数百万円、月額固定費が2〜10万円程度、従量課金が1件あたり50〜300円程度です。目視審査を外注する場合は1件あたり150〜700円程度が加算されます。月間100件規模なら年間の総額は80万円前後に収まる計算です。
Q. eKYCの1件あたりの料金はいくらですか?
従量課金の相場は1件あたり50〜300円程度です。単価は本人確認の方式(書類撮影の画像方式かJPKI方式か)、OCR・反社チェックなどのオプション、月間件数のボリュームディスカウントで変動します。正確な比較には、同じ方式・同じ件数の前提で複数社から見積もりを取る必要があります。
Q. eKYCはSaaSと自社開発のどちらが安いですか?
件数によります。月間数百件まではSaaSが圧倒的に安く、月間1万件を超えると従量課金が年間数千万円規模になるため、プラットフォーム事業者との直接契約+自社開発が検討圏に入ります。分岐は「開発費 ÷ 1件あたりの単価差」で回収に必要な件数を計算して判断します。
Q. eKYCの自社開発にはいくらかかりますか?
NFC読み取り、署名検証連携、エラー・失効時フロー、管理画面などの開発費で、規模により数百万〜数千万円が目安です。これに加えて、JPKIプラットフォーム事業者との契約費(固定+従量)と保守・運用費が継続的にかかります。
Q. SaaSから自社開発への切り替えはいつ検討すべきですか?
回収に必要な件数(開発費 ÷ 単価差)を自社の件数成長で割り、回収期間が現実的な長さに収まるかで判断します。たとえば開発費1,000万円・単価差100円なら10万件で回収でき、月間1万件なら10ヶ月です。単価差が小さい場合は件数が多くても回収に数年かかるため、まずプラットフォーム事業者の従量条件を確認することが先決です。
Q. 2027年の犯収法改正はeKYCの費用にどう影響しますか?
2027年4月施行予定の改正で書類撮影型の画像方式が廃止され、マイナンバーカードを使うJPKI方式への移行が必要になる事業者が多数あります。いずれにせよ改修費用が発生するタイミングであるため、単なる方式の載せ替えにとどめず、SaaS継続か自社開発かを含めた費用構造の見直しと、将来の移行に備えた疎結合な設計を検討する価値があります。
主な参考資料: Nexway eKYCの導入費用解説、eKYCの価格相場(ekyc-guide.com)、STRATE eKYC導入費用相場
TodoONada株式会社は、マイナンバーカード認証(JPKI・eKYC)を組み込んだWebサービス・スマホアプリの受託開発を行っています。方式選定(JPKI・IC読取り・画像方式)から開発・運用までのワンストップ支援に加え、デジタル庁「デジタル認証アプリ」の利用申請・審査対応の伴走や、犯収法など業種ごとの本人確認要件の整理からお手伝いしています。料金の目安は、認証機能組込みプランが150万円〜、認証込みのアプリ開発プランが400万円〜、大規模・個別要件は1,000万円〜です。SaaSと自社開発の比較試算や、ベンダー見積もりのセカンドオピニオンといった検討段階のご相談も歓迎します。詳しくはマイナンバーシステム導入支援、ご相談はお問い合わせからどうぞ。
この記事に関連するサービス
TodoONada株式会社では、マイナンバーカード認証を組み込んだシステム開発を行っています。
- マイナンバーシステム導入支援 — JPKI・eKYC対応の本人確認をワンストップで
導入・開発のご相談はお問い合わせからお気軽にどうぞ。検討段階のご相談も歓迎です。
出典・参照
- eKYCの導入費用解説(ネクスウェイ) (2026年7月4日確認)
- eKYCの価格相場(ekyc-guide.com) (2026年7月4日確認)
- eKYC導入費用相場(STRATE) (2026年7月4日確認)