本人確認システム開発の見積りの読み方。発注前に確認する10項目

本人確認システム開発の見積りの読み方。発注前に確認する10項目

本人確認(eKYC・JPKI)まわりのシステム開発は、同じ要件のつもりで相見積もりを取っても、数百万円から数千万円まで幅が出ます。ベンダーが吹っかけているとは限りません。多くの場合、原因は単純で、各社が「見積りに含めている範囲」が違うだけです。

本記事は、発注側の意思決定者・開発責任者が、届いた見積書を比較可能な状態に揃えられるようになることを目的にしています。2027年4月の犯罪収益移転防止法改正(概要は犯罪収益移転防止法の2027年改正で、オンライン本人確認はマイナンバーカードに一本化)に向けて見積りを取る機会は増えるはずなので、受託開発側の視点から「どこを見れば範囲の違いが分かるか」を具体的に書きます。

この記事の要点

  • 相見積もりの金額差は、「例外フローの範囲」「既存会員基盤との統合深度」「対応方式の数」の3つでほぼ説明できます
  • 金額を比べる前に範囲を揃えます。この記事のチェックリスト10項目は、そのまま見積り依頼の前提条件として使えます
  • 「エラー処理一式」「契約主体の記載なし」「テストの記載なし」は、後から追加費用になる予兆です
  • 安い見積りは正常系だけを見積もっている可能性が高く、そのまま採用すると本番直前に例外対応で止まります
  • 2027年対応の駆け込みで開発会社側の枠も埋まっていきます。要件を固めるのが早いほど選択肢は多く残ります

本人確認システムの見積りの構成要素

まず、見積りに含まれ得る要素の全体像です。「幅の出やすさ」は、各社の見積り方針の違いがそのまま金額差になりやすい度合いを示しています。

要素内容幅の出やすさ
方式・経路の選定eKYC SaaS組込 / プラットフォーム事業者直接契約 / デジタル認証アプリ連携大(そもそも別物)
クライアント側NFC読み取り(iOS/Android)、撮影UI、SDK組込
サーバー側署名検証連携、会員基盤との紐付け、審査業務画面
例外フロー証明書失効、PINロック、非対応端末、未成年特大(見積り差の主因)
確認記録の保存記録の保存(取引終了後7年)、個人情報の管理設計
テスト実カードでの検証、テスト用環境、方式ごとの確認
運用・保守障害対応、法改正追随、証明書仕様変更への対応大(月額の差)

この表の使い方は単純で、届いた見積書に7つの行がすべて登場しているかを確認するだけです。登場していない行があれば、それは「含まれていない」か「別の行に埋め込まれている」かのどちらかです。どちらなのかを質問するところから比較が始まります。

見積りの幅が出る3大要因

経験上、相見積もりの金額差はほぼこの3つで説明できます。

1. 例外フローの範囲

正常系(カードを読み取って検証して通す)は、各社で大きな差が出ません。差が出るのは、その外側です。証明書が失効していた場合、利用者がPINをロックした場合、NFC非対応端末だった場合に、どの画面を出してどこへ誘導するかまで作るかどうか。ここで工数は数倍変わります。

しかも本人確認の例外は、頻度が低くても事業インパクトが大きい領域です。PINロックの案内画面がないと、利用者は自治体窓口へ行くしかない状態で放置され、そのまま離脱します。「めったに起きないから後回し」という判断が最も高くつきます。

2. 既存会員基盤との統合深度

本人確認の結果をどこまで自社の基盤に取り込むかで、サーバー側の工数が変わります。段階で言えば3つあります。

  • 会員レコードに「本人確認済み」フラグを立てるだけ
  • 取得した氏名・住所を会員情報と突合し、差分があれば処理する
  • 差分の確認・承認を含む審査業務のワークフローまで作る

3番目まで作ると、管理画面・権限・監査ログ・差戻し導線が必要になり、規模が一段変わります。見積りを取る前に、自社がどの段階を求めているのかを決めておいてください。決めずに依頼すると、各社がそれぞれ違う段階を想定して見積もり、金額が並びません。

3. 対応方式の数

カード読み取り(カ方式)だけか、スマホ搭載(ル方式)もか、経過期間中のヘ方式もか。方式が1つ増えるごとに、クライアント実装・サーバー処理・テストがそれぞれ増えます。方式の対照はeKYCの方式一覧にまとめてあります。

方式を増やすかどうかは、対応できる利用者の幅と開発コストのトレードオフです。「念のため全部」と依頼すると見積りは膨らみます。自社の利用者層でどの方式が必要かを先に絞るほうが、結果的に早く安く仕上がります。

つまり金額だけ比べても意味がなく、「この3点をどう見積もっているか」を揃えて初めて比較になります。

本人確認システムの見積り金額差を生む3大要因を示す図

発注前チェックリスト10項目

見積り依頼の前に自社で決めておくこと、見積りを受け取ったら確認することです。これをそのまま依頼書に添付すれば、各社の前提が揃います。

  • 目的は犯収法対応か、ログイン強化か(使う証明書と契約構造が変わります。署名用電子証明書と利用者証明用電子証明書の違いを参照)
  • 経路は決まっているか(eKYCベンダー / 直接契約 / デジタル認証アプリの整理はマイナンバーカード本人確認を自社サービスに組み込む方法は4つ
  • 月間件数の見込みはあるか(SaaS従量と自社開発の分岐は件数で決まります。eKYC導入費用の相場を参照)
  • 対応方式はどれか(カ / ル / ヘ)
  • プラットフォーム事業者・ベンダーとの契約は誰が結ぶか(自社か開発会社経由か。従量費用の請求経路も)
  • 対象端末・OSバージョンの範囲は明記されているか
  • 例外フロー(失効・PINロック・非対応端末)の画面数・導線が見積りに含まれているか
  • 確認記録の保存(7年)と個人情報の保管設計が含まれているか
  • 実カードでのテストと、テスト環境の準備は誰の責任か
  • 保守範囲に法改正追随(2027年施行の細則変更等)が含まれているか

前半5項目は発注側が答えを持っておく項目、後半5項目は見積書の中に記載があるかを確認する項目です。前半が空欄のまま依頼すると、各社が別々の前提を置くため、金額はどうやっても比較できません。

危険な見積りのサイン

以下に当てはまる見積書は、金額の妥当性以前に範囲の確認が必要です。

  • 例外フローが「エラー処理一式」の1行になっている: ここが本体です。内訳がない見積りは、後から追加費用になるか、作られないかのどちらかです
  • 契約主体が書かれていない: プラットフォーム事業者との契約・届出を自社と開発会社のどちらが持つかが曖昧なまま進むと、サービスイン直前に手続きで止まります
  • テストの記載がない: 本人確認は実カード・実端末での検証が不可欠で、機材と期間が要ります。書かれていなければ聞くべきです
  • 安すぎる: 正常系だけの金額である可能性が高いです。上の3大要因を質問して、含まれている範囲を確認してください

質問すれば分かる、を前提にしてよい

ここまで書いた確認は、すべて「聞けば答えが返ってくる」種類のものです。範囲が書かれていないのは、隠しているというより、発注側が指定していないから書きようがない、というケースがほとんどです。

見積り比較の場では、金額を叩くより先に同じ質問を全社に投げるのが有効です。「例外フローは何画面分を想定していますか」「実カードテストの機材はどちらが用意しますか」「契約主体はどちらですか」。この3問への回答を横に並べるだけで、金額差の理由の大部分が見えます。

見積り比較シートの作り方

複数社から見積りを取る場合、金額の隣に置くべき列を挙げておきます。

見るポイント
対応方式の数カ / ル / ヘのどれを含むか。数が違えば金額は違って当然
例外フローの画面数数字で書かれているか。「一式」なら要質問
会員基盤統合の段階フラグのみ / 突合あり / 審査ワークフローあり
契約主体自社 / 開発会社経由。従量費用の請求経路も
テストの責任分界実カード・実端末・テスト環境を誰が用意するか
保守の月額と範囲法改正追随・証明書仕様変更が含まれるか
前提条件・除外事項ここに書かれていることが後の追加費用になる

最後の「前提条件・除外事項」は、見積書の末尾に小さく書かれていることが多い箇所です。ここを読み飛ばさないでください。金額の根拠より、除外事項のほうが後の予算に効きます。

本人確認の方式全体を先に押さえたい場合はeKYC完全マップ2026、記事をどの順で読むか迷う場合はeKYC記事の読み進め方ガイドを入口にしてください。

まとめ

  • 見積りの金額差は「例外フローの範囲」「会員基盤との統合深度」「対応方式の数」でほぼ説明できます
  • 金額の前に範囲を揃えます。チェックリスト10項目を仕様書代わりに使えば、相見積もりが比較可能になります
  • 前半5項目は発注側が答えを持つべき項目です。ここが空欄のままでは各社が別々の前提を置き、比較になりません
  • 「エラー処理一式」「契約主体の記載なし」「テストの記載なし」は追加費用の予兆です
  • 見積書の末尾にある前提条件・除外事項は、金額の根拠より優先して読んでください
  • 2027年対応の駆け込みで開発会社側の枠も埋まっていきます。要件を固めるのが早いほど選択肢は多く残ります

よくある質問

Q. 本人確認システムの見積りはなぜ会社によって金額が大きく違うのですか?

多くの場合、各社が見積りに含めている範囲が違うためです。差が出やすいのは、例外フロー(証明書失効・PINロック・NFC非対応端末など)をどこまで作るか、本人確認結果を既存の会員基盤とどこまで統合するか、対応する方式をいくつ実装するかの3点です。この3点の前提を揃えないまま金額だけを比べても、比較になりません。

Q. 見積りの金額差が出る一番大きな要因は何ですか?

例外フローの範囲です。正常系(カードを読み取って検証して通す)は各社で大差ありませんが、証明書が失効していた場合、PINをロックした場合、NFC非対応端末だった場合に、どの画面を出してどこへ誘導するかまで作るかどうかで工数は数倍変わります。頻度が低くても事業インパクトが大きい領域なので、後回しにすると最も高くつきます。

Q. 見積りを依頼する前に自社で決めておくことは何ですか?

主に5つです。目的が犯収法対応かログイン強化か(使う証明書と契約構造が変わります)、実装経路がeKYCベンダー・直接契約・デジタル認証アプリのどれか、月間件数の見込み、対応する方式(カ / ル / ヘ)、プラットフォーム事業者やベンダーとの契約を自社と開発会社のどちらが結ぶか。これらが空欄のまま依頼すると各社が別々の前提を置くため、金額を比較できません。

Q. 見積書のどこを見れば範囲の違いが分かりますか?

例外フローの画面数が数字で書かれているか、対象端末・OSバージョンの範囲が明記されているか、確認記録の保存(7年)と個人情報の保管設計が含まれているか、実カードでのテストとテスト環境の準備が誰の責任か、保守範囲に法改正追随が含まれているかの5点です。加えて、見積書末尾の前提条件・除外事項は必ず読んでください。ここに書かれていることが後の追加費用になります。

Q. 「エラー処理一式」と書かれた見積りは問題がありますか?

問題があります。本人確認システムでは例外処理こそが本体で、そこが1行にまとめられている見積りは、後から追加費用として請求されるか、そもそも作られないかのどちらかになりがちです。失効・PINロック・非対応端末それぞれについて、何画面を作りどこへ誘導するのかを内訳として出してもらってください。

Q. 安い見積りを選んでも大丈夫ですか?

金額だけで判断しないでください。安い見積りは正常系のみを対象にしている可能性が高く、例外フロー・会員基盤との統合・複数方式対応が含まれていないことがあります。契約主体の記載がない、テストの記載がないといったサインも同時に確認し、3大要因について同じ質問を全社に投げて回答を並べてから判断するのが安全です。

Q. 2027年の犯収法対応の見積りはいつ取るべきですか?

早いほど有利です。2027年4月の施行に向けて相見積もりを取る事業者が増え、eKYCベンダーにも開発会社にも問い合わせが集中します。開発側の枠が埋まれば、条件を比較する余地そのものが減ります。要件を固めるのが早いほど選択肢は多く残ります。

TodoONada株式会社では、マイナンバーカード認証(JPKI・eKYC)を組み込んだWebサービス・スマホアプリの受託開発を行っています。方式選定(JPKI・IC読取り・画像方式)から開発・運用までワンストップで支援し、他社見積りのセカンドオピニオンや要件定義前の壁打ちからのご相談にも対応します。犯収法・携帯電話不正利用防止法など業種ごとの本人確認要件の整理、デジタル庁「デジタル認証アプリ」の利用申請・審査対応(書類作成から指摘対応まで)も伴走可能です。料金の目安は認証機能組込みプラン150万円〜、認証込みアプリ開発プラン400万円〜、大規模・個別要件は1,000万円〜です。ご相談はマイナンバーシステム導入支援またはお問い合わせからお気軽にどうぞ。


この記事に関連するサービス

TodoONada株式会社では、マイナンバーカード認証を組み込んだシステム開発を行っています。

導入・開発のご相談はお問い合わせからお気軽にどうぞ。検討段階のご相談も歓迎です。

技術ブログ一覧へ戻る