犯罪収益移転防止法の2027年改正で、オンライン本人確認はマイナンバーカードに一本化。事業者が今やること

犯罪収益移転防止法の2027年改正で、オンライン本人確認はマイナンバーカードに一本化。事業者が今やること

2027年4月1日に、犯罪収益移転防止法(犯収法)の施行規則改正が施行される予定です。オンラインの本人確認から「運転免許証の写真を撮ってアップロードし、自撮りを添える」という画像送信型の方式が廃止され、ICチップ読み取りや公的個人認証(JPKI)といった偽造耐性の高い方式に限定されます。口座開設、クレジットカード申込、不動産契約。いま画像送信型で本人確認をしているサービスは、現行方式が使える2027年3月31日までにシステムを作り替えなければなりません。

本記事は、発注者・事業会社の意思決定者と開発責任者が「自社は影響を受けるのか」「いつまでに何を決めるのか」「見積もりを取る前に何を整理しておくのか」を判断できるように、改正の中身とシステム対応の選択肢を整理したものです。法令確認日: 2026年8月23日(警察庁 2026年3月公表の改正Q&Aに基づく)。

この記事の要点

  • 2027年4月1日施行の犯収法施行規則改正で、画像送信型(ホ方式)をはじめとする非対面の主要方式と、対面の写真なし書類による方式が廃止されます
  • 「マイナンバーカードに一本化」と紹介されがちですが、正確にはマイナンバーカード限定ではありません。運転免許証・在留カード・特別永住者証明書・旅券などのIC搭載書類も引き続き使えます。廃止されるのは「書類の画像を送る」確認方法です
  • 対面の本人確認も目視だけでは足りなくなり、ICチップの読み取りが原則義務付けられる方向です。店頭を持つ事業者にも機材の話が発生します
  • システム対応の選択肢は、eKYCベンダーのSDK/API、デジタル庁のデジタル認証アプリ連携、プラットフォーム事業者との直接契約の3系統です
  • 方針決定の現実的なデッドラインは2026年内。逆算すると実装は2027年1〜2月、テストは3月しか残りません

「マイナンバーカードに一本化」は半分だけ正しい

この改正はメディアで「オンライン本人確認がマイナンバーカードに一本化される」と紹介されることが多いのですが、この表現は誤解を生みます。正確には、マイナンバーカードに限定されるのではなく、「書類の画像を送る」という確認方法が廃止されるのです。

警察庁が2026年3月に公表したQ&Aでは、ICチップの読み取りに使える書類として運転免許証・在留カード・特別永住者証明書・旅券等のIC搭載書類が例示されています。つまり、マイナンバーカードを持っていない利用者を切り捨てる制度設計にはなっていません。ただし、読み取ったICチップ情報と券面情報の照合を行うことが求められる点は押さえておく必要があります。

この違いは要件定義に直結します。「マイナンバーカード必須」と読み違えると、カード非保有者向けの受け皿を設計から落としてしまい、サービスイン後に受付できないユーザーが発生します。逆に「IC搭載書類すべてに対応」と広げすぎれば、券面照合まで含めた実装範囲が膨らみます。どこまで対応するかは、自社の利用者層と業務コストを見ながら決める設計判断です。

廃止される方式と存続する方式

犯収法の本人確認方法には「ホ方式」「ヘ方式」のように、施行規則の条文の号に由来する呼び名があります。改正で、非対面の主要方式と対面の一部方式がまとめて廃止されます。

方式内容2027年4月以降
ホ方式写真付き本人確認書類の画像 + 本人の容貌画像を送信廃止
リ方式本人確認書類の写しの送付 + 転送不要郵便廃止
ハ方式(対面)写真なし本人確認書類2点の提示廃止
ニ方式(対面)写真なし書類1点 + 補完書類の送付廃止
JPKI方式(現行カ方式、2027年4月以降は新規則ヌ)マイナンバーカードの署名用電子証明書で電子署名存続(事実上の本命)
IC読み取り方式(現行ヘ方式、2027年4月以降は新規則ハ)写真付き書類のICチップ読み取り + 容貌画像存続(マイナカード非保有者の受け皿)

いま国内のeKYC(オンライン本人確認)で最も使われているのがホ方式です。スマホで免許証を撮影し、続けて自分の顔を撮る、あの流れ。これが使えなくなることが、今回の改正の中心にあります。

号記号で会話しないほうがよい理由

表を見て気づいた方もいると思いますが、同じ方式でも号記号が動きます。JPKI方式は2025年6月に旧ワ方式から現カ方式へ移り、2027年4月には新規則のヌへ再度ずれます。IC読み取り方式も現ヘから新規則ハへ移ります。

社内資料やベンダーとのやり取りで「カ方式で対応します」と書くと、時期によって指すものが変わってしまいます。方式は号記号ではなく中身(何を読み取り、何を検証するか)で確認するのが安全です。新旧の対照はeKYCの方式一覧に整理してあります。

対面も変わる

改正の影響は非対面だけではありません。対面の本人確認でも、写真付き本人確認書類の「目視確認」だけでは足りなくなり、ICチップの読み取りが原則義務付けられる方向です。店頭・窓口で本人確認をしている事業者は、読み取り機材の調達と店頭オペレーションの見直しが必要になります。「うちはオンラインをやっていないから関係ない」とはならない改正だという点に注意してください。

なお、2025年6月には先行して、マイナンバーカードのスマホ搭載(カード代替電磁的記録)を使う方式が追加済みです。改正は2027年に一度に来るのではなく、すでに段階的に始まっています。スマホ搭載を前提にしたフロー設計はマイナンバーカードのスマホ搭載とeKYCで扱っています。

なぜここまで厳格化されるのか

背景にあるのは本人確認書類の偽造です。精巧に偽造された免許証の画像でホ方式の本人確認を通過し、他人名義の口座が開設され、特殊詐欺に使われる。2024年の特殊詐欺の被害額は過去最悪を記録し、警察庁はなりすまし口座の実態を公表しています。

画像の目視やAI判定では、偽造書類との戦いに限界があります。一方、マイナンバーカードのICチップ内の電子証明書は暗号技術で保護されており、複製がきわめて困難です。J-LIS(地方公共団体情報システム機構)への失効確認も含めれば、なりすましの余地を大きく減らせます。政府の「デジタル社会の実現に向けた重点計画」でも、非対面の本人確認をJPKIに原則一本化する方針が明記されています。

発注者の立場で押さえておきたいのは、これが「規制強化のコスト」であると同時に「審査コストの削減機会」でもあるという点です。書類画像の目視チェックや差し戻しの往復は人手のかかる工程です。暗号による検証に切り替えれば、その工程自体が減ります。改修予算の議論では、コンプライアンス費用としてだけでなく業務効率の観点も併せて説明できると通りやすくなります。

公的個人認証サービス ポータルサイトのトップページ

出典: 公的個人認証サービス ポータルサイト(2026年7月時点の画面)

影響を受ける事業者

犯収法の「特定事業者」が直接の対象です。

  • 銀行・信用金庫などの金融機関
  • クレジットカード事業者
  • ファイナンスリース事業者
  • 宅地建物取引業者
  • 宝石・貴金属等取扱事業者
  • 郵便物受取サービス(私設私書箱)・電話受付代行・電話転送サービス事業者
  • 司法書士・行政書士・公認会計士・税理士・弁護士

また、犯収法の直接の対象でなくても、携帯電話の契約(携帯電話不正利用防止法)や古物営業など、他の法令・業界ルールに基づく本人確認も同じ方向(ICチップ読み取りへの寄せ)で見直しが進んでいます。「うちは犯収法対象外だから関係ない」とは言い切れないのが実情です。業法ごとの義務と施行時期の全体像は業法別・本人確認義務マップにまとめています。

自社が対象かどうかを判断するときは、事業者の看板ではなく取引の場面で見てください。金融業を名乗っていなくても、資金移動や与信を伴うサービスを組み込んでいれば特定取引に当たり得ます。逆に、対象外と判断した場合でも、その判断の根拠を文書化しておくと後の説明が楽になります。

システム側で必要になる対応

eKYCベンダーのSaaSを使っている場合

LiquidやTRUSTDOCKなどのeKYCサービスを使っている場合、ベンダー側がJPKI対応プランを提供しています。対応自体はプラン変更・API切り替えで済むことが多いものの、丸投げにはできません。次の3点は必ず確認してください。

  • 契約中のプランにJPKI方式(ICチップ読み取り)が含まれているか
  • 1件あたりの単価がどう変わるか(方式によって料金が異なる)
  • 自社アプリに組み込んでいる場合、SDKのバージョンアップと画面フローの改修範囲はどこまでか

特に単価は要注意です。画像送信型を前提に見積もっていた年間の本人確認コストが、方式変更で構造ごと変わる可能性があります。件数が多い事業者ほど、SaaS従量課金と自社側での実装のどちらが有利かを再計算する価値があります。判断材料はeKYC導入費用の相場にまとめました。

自社で本人確認フローを実装している場合

選択肢は大きく3つです。

  • eKYCベンダーのSDK/APIを組み込む — 最短で立ち上がり、費用は従量課金が中心です
  • デジタル庁の「デジタル認証アプリ」とOpenID Connectで連携する — 認証APIは手数料無料です。ただし用途により署名APIやプラットフォーム事業者との契約が必要になります
  • JPKIのプラットフォーム事業者(主務大臣認定を受けた民間事業者)と契約し、自社システムに組み込む — 自由度は高い一方、契約と実装の責任範囲は広くなります

どれを選ぶかは、件数、自社アプリの有無、本人確認結果の利用範囲(基本4情報の取得が必要か)で変わります。組み込み方の全体像はマイナンバーカード本人確認の組み込み方、デジタル認証アプリを使う条件はデジタル認証アプリとはを参照してください。

JPKI対応の3つの組み込み経路を示す図

どの経路でも共通で考えるべきこと

経路を決めた後も、以下は自社で設計しなければならない部分として残ります。ここを見積もりから落とすと、後から追加費用になります。

  • マイナンバーカードを持っていない・使えないユーザーの受け皿(IC読み取り方式や対面の代替フロー)をどう設計するか
  • NFC読み取りのUX。カードのかざし方で失敗するユーザーは一定数おり、離脱率に直結する
  • 本人確認記録の保存(7年)まわりのデータ設計を変える必要があるか

3点目は特に見落とされます。方式が変われば記録として残すべき証跡の中身も変わります。保存要件の考え方は本人確認記録の保存要件で詳しく扱っています。

スケジュールの逆算

2027年4月1日施行から逆算すると、余裕はそれほどありません。

時期やること
2026年内現行の本人確認フローの棚卸し、対応方式の決定、ベンダー選定または開発計画
2027年1〜2月実装・改修、社内規程(取引時確認規程)の改定
2027年3月テスト・切り替えリハーサル
2027年4月新方式で運用開始

このスケジュールで見落とされがちなのが、社内規程の改定とテストの実カード手配です。取引時確認規程は法務・コンプライアンス部門の承認プロセスを通す必要があり、開発の完了を待ってから着手すると間に合いません。実カードでのテストも、検証用のカードと端末を揃える時間が要ります。

そしてもう一つ、外部要因があります。eKYCベンダー各社と開発会社には、駆け込みの問い合わせが集中することが予想されます。ベンダー選定や見積もり取得は、早いほど条件を比較する余裕が持てます。見積もりを取る段階での確認項目は本人確認システム開発の見積りの読み方に整理しました。

2026年内に決めておきたいことチェックリスト

方針決定のデッドラインである2026年内に、社内で答えを出しておきたい項目です。

  • 自社の取引が犯収法の特定取引に当たるか、当たる場合はどの取引か
  • 現行の本人確認フローで使っている方式は何か(ホ方式のみか、複数併用か)
  • 2027年4月以降に採用する方式は何か(JPKI方式か、IC読み取り方式か、両方か)
  • マイナンバーカード非保有者・NFC非対応端末の利用者をどう受け付けるか
  • 対面窓口がある場合、IC読み取り機材の調達と店頭運用をどうするか
  • 実装経路は3系統のどれか(eKYCベンダー / デジタル認証アプリ / プラットフォーム事業者直接契約)
  • プラットフォーム事業者・ベンダーとの契約は自社が結ぶか、開発会社経由か
  • 取引時確認規程の改定担当と承認スケジュールは決まっているか
  • 本人確認記録の保存設計を見直す必要があるか
  • 予算の承認プロセスと、承認に必要な稟議資料の準備は始まっているか

本人確認方式の全体像を先に俯瞰したい場合はeKYC完全マップ2026を、どの記事からどの順で読むべきか迷う場合はeKYC記事の読み進め方ガイドをどうぞ。

まとめ

  • 2027年4月1日、犯収法のオンライン本人確認から「免許証の写真+自撮り」(画像送信型のホ方式)が廃止され、IC搭載書類の読み取りとJPKIに収斂します。マイナンバーカード限定ではありません
  • 対面もICチップ読み取りが原則になる方向です。金融・クレカ・不動産・士業など特定事業者が対象で、窓口を持つ事業者は機材と店頭運用の見直しが必要です
  • 号記号は2025年6月と2027年4月に動きます。方式は号記号ではなく中身で確認してください
  • 対応の選択肢はeKYCベンダーSDK、デジタル認証アプリ連携、プラットフォーム事業者との直接契約の3系統です
  • どの経路でも、カード非保有者の受け皿・NFC読み取りのUX・確認記録の保存設計は自社で決める必要があります
  • 方針決定は2026年内が現実的なデッドラインです。規程改定と実カードテストの手配は開発完了を待たずに動かしてください

よくある質問

Q. 2027年4月の犯収法改正で何が廃止されますか?

非対面では、写真付き本人確認書類の画像と本人の容貌画像を送信するホ方式、本人確認書類の写しの送付と転送不要郵便を組み合わせるリ方式が廃止されます。対面でも、写真なし本人確認書類2点の提示によるハ方式、写真なし書類1点と補完書類の送付によるニ方式が廃止されます。存続するのは、マイナンバーカードの署名用電子証明書で電子署名するJPKI方式と、写真付き書類のICチップ読み取りと容貌画像を組み合わせるIC読み取り方式です。

Q. オンライン本人確認はマイナンバーカードだけになるのですか?

マイナンバーカード限定ではありません。警察庁が2026年3月に公表したQ&Aでは、ICチップの読み取りに使える書類として運転免許証・在留カード・特別永住者証明書・旅券等のIC搭載書類が例示されています。廃止されるのは「書類の画像を送る」という確認方法であって、マイナンバーカード以外の書類が一律に使えなくなるわけではありません。ただし読み取ったICチップ情報と券面情報の照合が求められます。

Q. 対面の本人確認も改正の影響を受けますか?

受けます。写真付き本人確認書類の目視確認だけでは足りなくなり、ICチップの読み取りが原則義務付けられる方向です。店頭や窓口で本人確認をしている事業者は、読み取り機材の調達と店頭オペレーションの見直しが必要になります。非対面だけの改正ではない点に注意してください。

Q. 犯収法の対象になるのはどんな事業者ですか?

銀行・信用金庫などの金融機関、クレジットカード事業者、ファイナンスリース事業者、宅地建物取引業者、宝石・貴金属等取扱事業者、郵便物受取サービス・電話受付代行・電話転送サービス事業者、司法書士・行政書士・公認会計士・税理士・弁護士などの特定事業者です。犯収法の直接の対象でなくても、携帯電話不正利用防止法や古物営業など他の法令に基づく本人確認も同じ方向で見直しが進んでいるため、対象外と決めつけるのは危険です。

Q. システム対応の選択肢にはどんなものがありますか?

大きく3系統です。eKYCベンダーのSDK/APIを組み込む方法(最短・従量課金が中心)、デジタル庁のデジタル認証アプリとOpenID Connectで連携する方法(認証APIは手数料無料。ただし用途により署名APIやプラットフォーム事業者との契約が必要)、JPKIのプラットフォーム事業者と契約して自社システムに組み込む方法です。件数、自社アプリの有無、基本4情報の取得が必要かどうかで選択が変わります。

Q. いつまでに何を決めればよいですか?

2026年内に現行フローの棚卸し・対応方式の決定・ベンダー選定または開発計画までを終え、2027年1〜2月に実装と社内規程(取引時確認規程)の改定、3月にテストと切り替えリハーサル、4月に新方式で運用開始というのが逆算したスケジュールです。方針決定は2026年内が現実的なデッドラインになります。

Q. 既にeKYCサービスを使っていれば対応済みですか?

対応済みとは限りません。契約中のプランにJPKI方式(ICチップ読み取り)が含まれているか、1件あたりの単価が方式変更でどう変わるか、自社アプリに組み込んでいる場合はSDKのバージョンアップと画面フローの改修範囲がどこまでかを確認する必要があります。加えて、カード非保有者の受け皿、NFC読み取りのUX、本人確認記録の保存設計は自社側で決める部分として残ります。

主な参考資料: 警察庁 2026年3月公表の改正Q&A(PDF)警察庁 犯罪収益移転防止法の改正資料一覧三宅法律事務所ニュースレター(犯収法施行規則改正の実務解説)TRUSTDOCK 改正解説デジタル庁 デジタル認証アプリ公的個人認証サービス ポータルサイト

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