デジタル認証アプリの利用申請を実際にやってみた。問い合わせから契約成立まで、4回の差し戻しの記録
TodoONada株式会社の土門です。当社は2026年6月から、デジタル庁の「デジタル認証アプリ(デジタル認証サービス)」の利用申請を実際に行い、約1か月で事前準備契約の成立までたどり着きました。申請から本番接続までの一般的な流れは以前整理しましたが、この記事はその実体験版です。書類を4回差し戻された記録も、審査で設計の甘さを指摘された話も、そのまま書きます。これから申請する方が同じ穴に落ちないための記事です。
なお、申請書の記載内容そのものや管理番号などの機微な情報は伏せています。手続きの構造と、つまずきどころに絞ってお読みください。
この記事の要点
- 問い合わせから事前準備契約の成立まで約1か月。ただし書類の差し戻しを4回受けており、一発で通っていればもっと短縮できました
- 差し戻しの大半は「Wordのまま提出」「年号の書き間違い」「ロゴのピクセルサイズ」といった形式面。審査は想像以上に細かく、誤字ひとつまで見られます
- 形式チェックのあとに「プレ審査」があり、ここではユースケースの技術的な妥当性まで踏み込んだ指摘が来ます。当社は4情報とPPIDの使い分けを正されました
- 最大の誤算はJ-LISのテスト用ICカード。問い合わせからカード手配の目処が立つまで約2か月かかりました。テストカードだけは一番最初に動くべきです
全体の流れと実際にかかった日数
まず結論として、当社の実際のタイムラインを示します。
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 6月15日 | デジタル庁の問い合わせフォームから利用相談を送信 |
| 6月16日 | 翌日に返信。初回打合せ(オンライン30分)の日程が確定 |
| 6月24日 | 初回打合せ。申請書類一式とサービス管理番号の案内を受ける |
| 6月26日 | 申請書類3点を提出。同日、J-LISにテスト用ICカードの問い合わせ |
| 6月30日〜7月14日 | 書類の差し戻し4回と再提出の往復 |
| 7月16日 | プレ審査でユースケース設計への指摘。回答・修正して正式審査へ |
| 7月19日 | 審査完了、事前準備契約の成立通知(有効期間6か月) |
| 7月23日 | テスト環境の提供・テストアプリ(Android版)の配信 |
| 8月上旬〜中旬 | テスト用マイナアプリの配信(iOS版→Android版の順) |
| 8月21日 | J-LISのメールアドレス登録が完了(問い合わせから約2か月) |
| 8月24日 | テスト用ICカードの借用書を提出、カード発送の準備へ |
| 8月末〜9月 | 発送が止まっていたため催促。全AP搭載のテストカード2枚が到着 |
問い合わせから契約成立までは約1か月です。デジタル庁側の対応は速く、問い合わせの翌日に打合せ日程が返ってくるなど、役所のイメージよりずっと機敏でした。時間を食ったのはむしろ当社側の書類不備と、J-LIS側のテストカード手配です。
STEP1. 問い合わせから初回打合せまで
入口は、デジタル庁の民間事業者向けページにある問い合わせフォームです。当社は利用予定API(認証APIのみ・署名APIは当初なし)、利用目的、確認したい事項を箇条書きにして送りました。
翌日に返信があり、オンライン打合せ(30分)が設定されました。内容は次の3つです。
- 活用想定・ユースケースのヒアリング
- サービス概要と導入手続きの案内
- 質疑応答
打合せ後のメールで、申請書類一式の案内と「サービス管理番号」の発番を受けます。この番号は以後のすべての問い合わせで必要になるので、必ず控えてください。また、このタイミングでテスト用ICカードが必要ならJ-LISへ問い合わせるよう案内があります。ここが最初の分岐点で、後述するとおり、テストカードの手配はこの日のうちに動くべきでした。
STEP2. 申請書類の提出
事前準備契約の申請で提出したのは、次の書類です。
| 書類 | 形式 | 内容 |
|---|---|---|
| 事前準備契約申込書 | Word様式 → PDFで提出 | 契約主体の情報 |
| サービス基本情報 | Excel | サービス概要、ユースケース、緊急連絡先など |
| テスト環境・本番環境設定書 | Excel | リダイレクトURI等の接続情報、テスト端末情報 |
| ロゴ画像 | PNG | 400×400ピクセル厳守。ファイル名は設定書の記載と拡張子まで一致させる |
様式はサポートサイトからダウンロードできますが、バージョンが更新されるため、必ず最新版を取り直してください。
提出後は「論理チェック」(形式面の確認)→「審査」の順で進み、審査には都度「7開庁日程度」かかる案内があります。つまり、差し戻しを1回受けるたびに最大1週間強が消えます。 当社はこれを4回やりました。
失敗事例集:4回の差し戻しで指摘されたこと
ここからが本題です。当社が実際に受けた指摘を、恥を忍んでそのまま列挙します。
失敗1. Wordのまま提出した
申込書はWord様式で配布されますが、提出はPDFです。案内を読み飛ばして.docxのまま送り、1往復目で差し戻されました。
失敗2. 記入日の年号を間違えた
書類右上の記入日を「2025年」と書いていました(正しくは2026年)。年をまたいで使い回したテンプレートの日付を直し忘れる、ありがちなミスです。しかも指摘が「年号の相違があります」とだけ来て、どのセルか特定できず、質問の往復がもう1回発生しました。差し戻しを受けたら、どの箇所か曖昧な場合はすぐ具体的に聞き返したほうが早いです。
失敗3. 緊急連絡先の氏名欄に電話番号を書いた
サービス基本情報の「緊急連絡先(ご担当者氏名)」の欄に電話番号を記入していました。Excel様式は列の意味を取り違えやすいので、記入後に項目名と値を一つずつ突き合わせるべきでした。
失敗4. 非表示シートの存在に気づかなかった
設定書のExcelには、初期状態で非表示になっているシート(テストカードのシリアル番号リスト)があり、アプリでの試験をする場合は再表示して記入する必要がありました。非表示シートに必須項目があるとは思わず、完全に見落としました。様式を受け取ったら、まずすべてのシートを再表示して全体を眺めることをおすすめします。
失敗5. Excelの「赤枠」までが審査対象だった
設定書の入力欄を囲む赤枠(図形)が、入力不要な行まで囲っていたため「デフォルトの状態に修正してください」という指摘を受けました。値だけでなく、様式の見た目を崩していないかまでチェックされます。 セルの追加・削除や図形の移動は厳禁です。
失敗6. ロゴ画像で2回落ちた
ロゴは400×400ピクセル指定ですが、1回目は添付漏れ+サイズ不一致、2回目もまだサイズが合っておらず、都合2往復しました。書き出し設定のミスという初歩的な話ですが、審査側からも「サイズ誤りが多い」と言われるほど、みんなここで転んでいるようです。提出前に画像のプロパティで実寸を確認してください。ファイル名が設定書に記載した名称と拡張子まで一致している必要がある点も見落としがちです。
失敗7. 誤字も審査で指摘される
ユースケース欄の「複数購入」を「複数個運輸」と誤変換したまま提出しており、審査で指摘されました。書類の文言はすべて読まれています。
プレ審査:形式チェックの先にある「設計の審査」
形式面をクリアすると、担当審査官によるプレ審査に進みます。ここで来た指摘は、それまでの形式指摘とは質が違いました。
当社は当初、ユースケース欄に「基本4情報(氏名・住所・生年月日・性別)を使って同一人物を判定し、転売や複数購入を防ぐ」という趣旨の記載をしていました。これに対する指摘の要旨は次のとおりです。
認証APIを使えばsub値としてPPID(利用者ごとの一意な識別子)が返る。同一人物の判定はPPIDで行うべきであり、4情報は引っ越しや改姓で変わる可変データなので、4情報だけでは同一人物判定はできない。その用途なら4情報の取得自体が不要ではないか。
まったくそのとおりで、返す言葉がありませんでした。当社は同一人物判定をPPIDに一本化し、4情報は入力補完(自動入力)と事前入力情報との突合という別目的に整理し直して回答したところ、承認されて正式審査に進みました。
ここから得た学びは2つあります。
- 申請書のユースケース欄は「審査をパスするための作文」ではなく、設計レビューを受ける場だということ。取得する情報ごとに「なぜそれが必要か」を技術的に説明できないと通りません
- 4情報の用途が消えるなら「利用しない」に申請を変える必要があるように、取得する属性情報は必要最小限が原則です。とりあえず取れるものは取っておく、という発想は通用しません
なお、指摘のメールには「内容が解らなければ短時間の打合せも可能」と添えられており、審査側が対話に前向きなのは好印象でした。
契約成立後の流れと、そこで知った注意点
7月19日に審査完了の通知が届き、事前準備契約が成立しました。ここで押さえておくべき点が3つあります。
- 事前準備契約の有効期間は6か月です。この間にテスト環境での検証を終える計画を立てる必要があります
- 本番環境の構築は「テスト環境でのテスト完了報告」の後に始まります。テストと本番を並行で進めることはできません
- 契約はサービス単位です。当社のように複数サービスを持つ事業者が別のサービスでも認証APIを使う場合は、別途申込みが必要です
テスト環境は契約成立から数日で提供され、クライアントIDが通知されます。テスト用アプリの配信では、プラットフォームごとの違いに注意が必要でした。
- iOS版:申請書に記載したアドレスに案内メールが届き、そこから入手します
- Android版:案内メールは届きません。 Google Playで対象アプリを検索し、ベータ版テスターとして参加する方式です。「案内が来ない」と待ち続けると時間を失います(当社はこの仕様を知らず、しばらく待ってしまいました)
テストカード代替機能とJ-LISのテスト用ICカード
物理のテスト用ICカードがなくても検証を始められる「テストカード代替機能」が用意されており、当社もまずはこれで開発を開始しました。ただし、代替機能の利用中はテスト用アプリが配信されない、代替機能とテスト用アプリは端末上で共存できない、代替機能だけでは「試験完了」と認められない、という3つの制約があります。代替機能は「カード到着待ちの間に実装を進めるためのもの」であり、テストカードの手配を省略できるものではありません。代替機能とテスト用アプリの切り替えは、そのたびにデジタル庁へ設定書で申し出る必要があります。使い方と注意点はテストカード代替機能の解説にまとめました。
そして今回の申請でいちばんの想定外が、そのテストカードでした。テスト用マイナンバーカード(テスト用ICカード)はデジタル庁ではなく、J-LIS(地方公共団体情報システム機構)への問い合わせで入手します。当社は6月26日に問い合わせましたが、メールアドレスのホワイトリスト登録(メール受信に必須の事務手続き)が完了したのは8月21日。約2か月かかりました。 この間、書類のやり取り自体が進められないため、待つしかありません。デジタル庁側の契約が7月中旬に成立してテスト環境が使えるようになっても、物理カードでの試験には入れない状態が続きました。テストカードの手配遅れはそのままリリース時期に響きます。
手続きの要点だけ挙げると、入手方法は借用(無償・9枚以内)と購入(10枚以上・有償)の2通り、カード種別は「JPKI-APのみ」と「全AP搭載」から選び、借用書はPDFで命名規則やページ構成の指定があります。受理後も発送が自動では進まず、当社は催促してようやく2枚を受け取りました。全AP搭載のテストカードには券面の顔写真データも書き込まれているので、顔画像を使った検証にも使えます。J-LISとの実際のやり取り、借用と購入の比較、カード種別の選び方、借用書の書き方、利用規約の条件、代替機能で待ち時間をしのぐ進め方は、J-LISテスト用ICカード借用の実体験記事に分けて詳しく書きました。
なお2026年7月からは、テストカードをデジタル庁へ登録する手続きは不要になりました(設定書の配信シートへの記載は必要です)。
これから申請する方への最大のアドバイスは、「デジタル庁への問い合わせと同じ日に、J-LISへのテストカード問い合わせも出す」です。 2つの手続きは完全に独立しており、遅いほう(ほぼ確実にテストカード)が全体のボトルネックになります。
これから申請する方向けチェックリスト
当社の失敗を裏返すと、そのままチェックリストになります。
- デジタル庁への問い合わせと同日にJ-LISへテストカードを問い合わせたか(カード種別の選び方はテストカード借用の記事参照)
- 申請様式は最新版をダウンロードし直したか
- 申込書をPDFに変換したか
- 記入日の年号は正しいか(テンプレート使い回しに注意)
- Excelの非表示シートをすべて再表示して確認したか
- 様式の赤枠・書式を崩していないか
- ロゴは400×400ピクセルちょうどか。ファイル名は設定書の記載と拡張子まで一致しているか
- ユースケース欄で、取得する情報ごとに必要性を技術的に説明できるか(同一人物判定はPPID、4情報は可変データという整理を理解しているか)
- 誤字脱字がないか(すべて読まれます)
- 有効期間6か月・本番構築はテスト完了報告後、というスケジュール制約を計画に織り込んだか
まとめ:審査は厳格だが、対応は速くて誠実
一連の手続きを終えての率直な感想は、「細かいが、理不尽ではない」です。差し戻しは4回受けましたが、指摘はすべて具体的で、返信も早く、設計面の指摘に至っては無料の設計レビューと言ってもいいものでした。形式チェックが厳しいのも、国の認証基盤に接続する以上は当然だと思います。
一方で、書類の完成度とテストカードの段取りは、事業者側の準備で大きく差がつきます。当社は差し戻し4回で約2週間、テストカードで約2か月を使いました。この記事のチェックリストどおりに進めれば、その大半は削れるはずです。
当社では、この経験をふまえてデジタル認証アプリの導入支援(申請書類の作成・差し戻し対応・OIDC実装・テスト計画まで)をお引き受けしています。デジタル認証アプリ連携の開発実務とあわせて、マイナンバーシステム導入支援をご覧ください。自社での申請や実装に不安がある方は、お問い合わせからお気軽にご相談ください。
出典・参照
- デジタル庁 デジタル認証アプリ(民間事業者向け) (2026年8月31日確認)
- デジタル庁 開発者サイト 実装ガイドライン (2026年8月31日確認)
- J-LIS 地方公共団体情報システム機構 (2026年8月31日確認)