生成AIの情報漏洩事例2026。公表事例5件と調査2件から読む5つの経路と、会社がやるべき対策

生成AIの情報漏洩事例2026。公表事例5件と調査2件から読む5つの経路と、会社がやるべき対策

「生成AIで情報漏洩が起きる」と言われても、何が、どこから、どう漏れたのかが分からなければ、対策の優先順位は決められません。ネット上の事例紹介には、出典がはっきりしないものや、件数が報道によって違うものも混ざっています。

本記事では、企業・行政・AI事業者自身の公表、またはセキュリティ企業の調査報告で確認できる事例だけを集め、漏洩の経路ごとに5つに分類しました。報道でしか確認できない部分は「報道」と明記し、出典で確認できなかった数字は載せていません。そのうえで、経路ごとに会社が何をすれば防げたかを整理します。対策の全体像は『生成AIの情報漏洩対策2026』にまとめています。

この記事の要点

  • 生成AIの情報漏洩は、①社員が会社の許可していないAIに入力する(シャドーAI)、②AIサービス側の不具合、③AIサービスのアカウントの乗っ取り、④AIの開発・運用での設定ミス、⑤自前で立てたAIサーバーの外部公開、の5つの経路に分けられます
  • 国内では2026年9月、RIZAPが、従業員が会社の許可していない生成AIサービスに顧客の健康情報を含むデータをアップロードした事案を公表しました。シャドーAIが原因の国内事案として、公表文で経緯を確認できる例です
  • 個人情報保護委員会は2023年6月の時点で、本人の同意なく個人データをプロンプトに入力すると、個人情報保護法に違反する可能性があると注意喚起しています
  • 5つの経路のうち、会社の対策でいちばん効くのは①です。禁止ではなく、法人プランなどの公式に使える環境と、入れてよい情報の線引きを用意することで、私用のAIへの入力を減らせます
  • ⑤は「ローカルLLMなら安全」という思い込みの裏側です。認証のないまま外部に公開されたOllamaサーバーが多数見つかっており、閉域・ローカルでも設定次第で漏洩の経路になります

生成AIの情報漏洩、5つの経路

最初に分類を示します。事例を経路で分けると、どこに手を打てばよいかが見えます。

経路何が起きるか本記事の事例会社が主に打てる手
① 会社の許可していないAIへの入力(シャドーAI)社員が私用・未承認のAIに機密や個人データを入力するRIZAP(2026年)、Samsung(2023年)公式に使える環境、入れてよい情報の線引き、相談窓口
② AIサービス側の不具合サービスのバグで、他の利用者に情報が見えるOpenAI(2023年)入力するデータの区分、法人プランの選定、事業者の情報開示の確認
③ アカウントの乗っ取り端末のマルウェアなどでAIサービスのログイン情報が盗まれ、履歴が見られるGroup-IBの調査(2023年)SSOと多要素認証、会社アカウントへの統一、端末対策
④ AIの開発・運用での設定ミス学習データやログの保管設定を誤り、外部から見える状態になるMicrosoftの研究チーム(2023年)、DeepSeek(2025年)保管先の権限設計、委託先・事業者の評価
⑤ 自前のAIサーバーの外部公開ローカルLLMのサーバーを認証なしでインターネットに公開してしまうCisco Talosの調査(2025年)認証、ネットワークの閉域化、設定の点検

① シャドーAI:会社の許可していないAIへの入力

RIZAP(2026年8月発生、9月3日公表)

RIZAP株式会社の健康経営・保険者事業部で、従業員が会社の許可していない私用の生成AIサービスに、特定保健指導の対象者データをアップロードしていたことが分かりました。同社の公表によると、データには保険証の記号番号、氏名、生年月日、性別、メールアドレス、住所と電話番号の一部、疾患に関する情報(高血圧・糖尿病・脂質異常)が含まれていました。

同社は個人情報保護委員会に報告し、生成AIサービスの運営事業者に照会したうえで、第三者による閲覧はなく、生成AIの学習にも利用された可能性はないと確認したとしています。対象人数は同社の公表文には記載がなく、報道では健康保険組合側の公表をもとに約2万人と伝えられています。

この事案は、本記事で扱う中で最も典型的なシャドーAIの例です。業務を効率化しようとした従業員が、会社の許可していないサービスを使い、要配慮個人情報を含むデータを入力しました。結果として学習や第三者閲覧は確認されなかったものの、委員会への報告と公表が必要になっています。

Samsung Electronics(2023年、報道)

Bloombergの報道(2023年5月2日)によると、Samsung Electronicsの半導体部門で、エンジニアが社内のソースコードをChatGPTに入力していたことが分かり、同社は社内での生成AIの利用を制限しました。報道では、社内会議の内容を入力した例も伝えられています。件数については韓国メディアの報道が中心で、同社の公式発表では確認できなかったため、本記事では「複数回」とだけ記載します。

個人情報保護委員会の注意喚起(2023年6月2日)

漏洩事案ではありませんが、①の経路についての行政の見解として重要です。個人情報保護委員会は2023年6月2日、事業者向けの注意喚起として、本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、そのデータが応答の生成以外の目的で取り扱われる場合、個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性があると指摘しました。RIZAPの事案は、この注意喚起が想定していた状況がそのまま起きた例と言えます。

② AIサービス側の不具合

OpenAI ChatGPT(2023年3月20日)

OpenAIは2023年3月24日、ChatGPTで発生した障害の経緯を公表しました。オープンソースのRedisクライアントライブラリの不具合により、一部の利用者に、他の利用者のチャット履歴のタイトルが表示されていました。同じ不具合で、約9時間の間に有料プラン(ChatGPT Plus)の利用者の1.2%について、氏名、メールアドレス、支払い先住所、カードの種類と下4桁、有効期限が他の利用者に見える状態になった可能性があるとしています。

利用者側に落ち度がなくても、サービス側の不具合で情報が見えることがある、という事例です。法人プランでも外部のサービスである以上、このリスクはゼロになりません。社外送信が禁止されたデータを入れない区分けが必要なのはこのためです。

③ アカウントの乗っ取り

Group-IBの調査(2023年6月20日)

セキュリティ企業のGroup-IBは、2022年6月から2023年5月にかけて、情報窃取型のマルウェアに感染した端末のログから、ChatGPTのログイン情報が保存された端末を10万台以上確認したと公表しました。そのうち約4割がアジア太平洋地域でした。

これは特定の組織の事案ではなく、リスクの実態を示す調査です。AIサービスは会話の履歴を保存するため、アカウントを乗っ取られると、過去に入力した内容がまとめて見られます。私用アカウントで業務をしている場合、会社は乗っ取りに気づくことも、履歴を削除することもできません。

④ AIの開発・運用での設定ミス

Microsoftの研究チーム(2023年9月18日公表)

Microsoftは、AI研究チームが学習用データを共有する際に、権限が広すぎる共有用のアクセストークン(Azure SASトークン)を公開のGitHubに掲載していたことを公表しました。発見したWiz社の報告によると、元従業員2名の端末のバックアップや社内チャットのメッセージなど、合計38TBが外部から見える状態でした。Microsoftは顧客データは含まれていなかったとしています。

DeepSeek(2025年1月、Wiz Researchが発見)

Wiz Researchは2025年1月、中国のAI事業者DeepSeekのデータベースが認証なしでインターネットに公開されていたことを報告しました。100万行を超えるログに、平文のチャット履歴、APIキー、システム内部の情報が含まれていたとしています。発見者による報告で、DeepSeek自身の公表は確認できませんでした。

どちらも、利用者ではなくAIを開発・提供する側の設定ミスです。社員がどのAIサービスを使っているかを会社が把握していないと、こうした事業者側の事故が起きても、自社のデータが含まれていたかを判断できません。

⑤ 自前のAIサーバーの外部公開

Cisco Talosの調査(2025年9月1日)

Cisco Talosは、インターネット検索エンジンのShodanで、外部から到達できるOllama(ローカルLLMを動かす代表的なソフトウェア)のサーバーを1,139台確認したと報告しました。そのうち214台は、認証なしでモデルが動作する状態で、外部から勝手に使われたり、モデルを入れ替えられたりする余地があると指摘しています。

これも特定の組織の事案ではなく、リスクの実態を示す調査です。「クラウドに出さずにローカルLLMを使えば安全」という考え方の裏側で、設定を誤ると社内のAIサーバー自体が漏洩の入口になります。閉域・ローカルでも残るリスクは『ローカルLLMは本当に安全か』で整理しています。

経路ごとに効く対策

5つの経路のうち、会社が自分で減らせる余地が最も大きいのは①です。①は会社の環境の外で起きるため、監視を強めても見えません。

経路会社がやること
① シャドーAI禁止ではなく、法人プランなどの公式に使える環境を用意する。入れてよい情報の線引きを「許可」の形で示し、相談窓口と事故時の報告ルートを置く
② サービス側の不具合データを区分し、社外送信が禁止されたデータはどのサービスにも入れない。そうした業務には閉域のローカルLLMを用意する
③ アカウントの乗っ取り会社アカウントに統一し、SSOと多要素認証を必須にする。退職者のアカウントを確実に止める
④ 事業者側の設定ミス利用するAIサービスを会社として選び、事業者の認証取得やセキュリティの開示を確認する。未承認のサービスを使わせない
⑤ 自前サーバーの公開ローカルLLMのサーバーに認証をかけ、外部に公開しない。設定を定期的に点検する

①への対策は、そのまま全社でのAI活用の土台になります。どの部門がどの業務にAIを使いたいのかを、責めずに集めると、どこから公式の環境を配るべきかが分かります。手順は『シャドーAI対策2026』、法人プランの選び方は『法人向け生成AIプラン比較2026』を参照してください。

まとめ

  • 生成AIの情報漏洩は、シャドーAI、サービス側の不具合、アカウントの乗っ取り、開発・運用の設定ミス、自前サーバーの外部公開の5つの経路に分けられます
  • 国内では2026年9月にRIZAPが、従業員が私用の生成AIに顧客の健康情報を含むデータをアップロードした事案を公表しました。個人情報保護委員会は2023年の時点で、同意のない個人データの入力が違反になりうると注意喚起しています
  • サービス側の不具合(OpenAI、2023年)や事業者側の設定ミス(Microsoft、DeepSeek)は利用者側では防げないため、社外送信が禁止されたデータを入れない区分けが前提になります
  • ローカルLLMでも、認証なしで外部に公開すれば漏洩の入口になります
  • 会社の対策で最も効くのはシャドーAIへの対策で、禁止ではなく公式に使える環境と線引きを用意することが、全社でのAI活用の土台にもなります

よくある質問

Q. 生成AIの情報漏洩は、日本でも起きていますか?

起きています。2026年9月、RIZAP株式会社は、従業員が会社の許可していない私用の生成AIサービスに、特定保健指導の対象者の氏名や疾患情報などを含むデータをアップロードしていた事案を公表しました。同社は個人情報保護委員会に報告し、第三者による閲覧や学習への利用はなかったと確認したとしています。

Q. ChatGPTに入力した情報が他人に見られたことはありますか?

あります。OpenAIの公表によると、2023年3月20日にライブラリの不具合で、一部の利用者に他の利用者のチャット履歴のタイトルが表示され、有料プランの利用者の一部では支払い関連の情報も見える状態になった可能性がありました。

Q. 社員が個人情報を生成AIに入力すると違法になりますか?

場合によります。個人情報保護委員会は2023年6月の注意喚起で、本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、そのデータが応答の生成以外の目的で取り扱われる場合、個人情報保護法の規定に違反する可能性があると指摘しています。契約や社内規程に反する場合も問題になります。

Q. ローカルLLMなら情報漏洩は起きませんか?

自動的に安全になるわけではありません。Cisco Talosの2025年の調査では、インターネットから到達できるOllamaサーバーが1,139台見つかり、そのうち214台は認証なしでモデルが動作する状態でした。ローカルLLMでも、認証、ネットワークの閉域化、設定の点検が必要です。

Q. 生成AIの情報漏洩を防ぐには、何から始めればよいですか?

最も効くのは、会社の許可していないAIへの入力(シャドーAI)を減らすことです。禁止ではなく、法人プランなどの公式に使える環境を用意し、入れてよい情報の線引きと相談窓口をセットで示します。社外送信が禁止されたデータを扱う部門には、閉域のローカルLLMを用意します。


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