業法別・本人確認義務マップ。2025〜2027年に厳格化が連鎖する4つの法律

業法別・本人確認義務マップ。2025〜2027年に厳格化が連鎖する4つの法律

「本人確認の義務」と聞いて多くの方が思い浮かべるのは犯罪収益移転防止法(犯収法)でしょう。しかし実務では、業種ごとに別々の法律が本人確認を義務づけており、しかもそれらが2025年から2027年にかけて別々のタイミングで厳格化されていきます。自社がどの法律の対象で、いつまでに何を変えるのか。その答えは法律ごとに違います。

本記事は、発注者・事業会社の意思決定者が「自社は何本の法律に同時に対応する必要があるのか」「それぞれの期限はいつか」「システムは法律ごとに作り分けるべきか」を判断できるよう、主要な業法をシステム対応の観点から1枚のマップに整理したものです。結論から言えば、法律の条文はバラバラでも、要求される技術要素はほぼ共通します。作り分ける必要はありません。

この記事の要点

  • 本人確認義務は犯収法だけではありません。携帯電話不正利用防止法・古物営業法・金属盗対策法・チケット不正転売禁止法など、業法ごとに別の義務と別の施行時期があります
  • 2025年10月→2026年4月→2026年6月→2027年4月の順で、画像・書類ベースの本人確認が段階的に締められていきます
  • 対象になる法律は1つとは限りません。中古スマホ買取のように、1つのサービスが3本の法律にまたがることがあります
  • 条文は違っても要求される技術要素はIC読み取り・電子証明書・記録保存に共通化しており、基盤を1つ作れば複数の業法に効きます
  • 記録の保存年限だけは法律ごとに異なります(犯収法7年、金属盗対策法3年など)。ここは共通化できません

厳格化のタイムライン

まず時系列で押さえます。書類の画像送信・写しに頼った本人確認が、業法を追うごとに順番に締められていく流れです。

  • 2025年10月: 古物営業法の運用強化。金属製品は1万円未満の取引でも相手方確認・記録が義務に
  • 2026年4月: 携帯電話不正利用防止法の改正施行。画像送信・写し送付による確認の一部廃止、IC読み取り・公的個人認証へ
  • 2026年6月1日: 金属盗対策法(新法)が全面施行。特定金属くず買受業に届出制と本人確認・記録義務
  • 2027年4月1日: 犯収法改正施行。非対面はJPKI原則一本化、対面もIC読み取り義務化

この順序には実務上の意味があります。最後に来る犯収法が最も影響範囲の広い改正ですが、その前に携帯電話不正利用防止法(2026年4月)が同じ方向の改正を先行します。携帯・通信系の事業者にとっては、2026年4月対応がそのまま2027年4月対応の予行演習になるという関係です。

逆に言えば、複数の業法にまたがる事業者が「まず古物、次に携帯、最後に犯収法」と個別に対応していくと、同じような改修を3回発注することになります。タイムラインを一度に見渡してから設計に入るべき理由がここにあります。

業法別マップ

法律対象事業者確認が必要な場面直近の変化
犯収法金融機関、クレジットカード、資金移動・暗号資産、貸金、宅建、貴金属等取扱、郵便物受取サービス等の特定事業者口座開設・契約締結などの特定取引時2027年4月: 画像送信型廃止、JPKI一本化・対面IC義務化
携帯電話不正利用防止法携帯キャリア、MVNO・格安SIM、レンタル携帯、IP電話、販売代理店回線契約・譲渡時2026年4月: 画像送信・写し送付の一部廃止、IC・JPKIへ
古物営業法古物商(中古品買取・リユース事業者)買取時の相手方確認(非対面含む)2025年10月: 金属物品は少額でも確認・記録義務
金属盗対策法特定金属くず買受業(スクラップ買取等)買受け時2026年6月: 新法全面施行。届出制、確認記録の保存(3年)
チケット不正転売禁止法興行主・チケット販売事業者特定興行入場券の販売時・入場時の本人確認(不正転売対策)施行済み。JPKI・顔認証の活用が拡大中

1社が複数の法律にまたがるケース

対象になる法律は1つとは限りません。むしろ、現代のサービスは複数にまたがるほうが自然です。

たとえば中古スマホの買取を行う通信系サービスを考えてみます。中古品の買取なので古物営業法が関わります。回線契約とセットで扱うなら携帯電話不正利用防止法も関わります。さらに買取額の支払いに資金移動を使えば犯収法も絡んできます。1つのサービスに3本の法律が乗るわけです。

このとき、それぞれの部門が別々にコンプライアンス対応を進めると、同じ利用者に対して確認画面が3回出る、あるいは記録が3つのシステムに分散する、といった事態が起きます。設計の起点は「どの法律に対応するか」ではなく「この事業のどの取引場面で、誰の何を確認するか」に置くべきです。

システム対応の観点で見ると「同じ絵」になる

法律ごとに条文の書き方は違いますが、2025〜2027年の改正が要求している技術要素はほぼ共通しています。

つまり、どの業法対応でも作るものはマイナンバーカード(または運転免許証等)のIC読み取り + 検証 + 記録保存の基盤に収斂します。先行する携帯電話不正利用防止法(2026年4月)への対応は、犯収法(2027年4月)対応の予行演習と言える関係です。逆に、これから基盤を作るなら最初から両方の要件を満たす設計にしておくのが効率的です。携帯電話不正利用防止法側の詳細は携帯電話不正利用防止法の2026年改正にまとめています。

1つの本人確認基盤が4つの業法対応に共通で効くことを示す図

共通化できる部分とできない部分

「基盤を1つ作れば足りる」と書きましたが、すべてが共通化できるわけではありません。線引きを整理します。

要素共通化理由
IC読み取り・NFCのクライアント実装できる読み取る対象の書類が同じ
電子証明書の検証・失効確認できるJPKIの仕組みは業法によらず同一
確認結果のデータモデルほぼできる保持する項目が近い
記録の保存年限できない犯収法7年、金属盗対策法3年など法律ごとに異なる
確認が必要な取引の判定できない「特定取引」「買受け」「回線契約」など場面の定義が法律ごとに違う
届出・登録などの行政手続できない事業者側の手続として個別に必要

設計上のポイントは、共通化できない部分を共通基盤の外側にパラメータとして切り出すことです。保存年限を法律ごとの設定値として持ち、取引判定を業務側のルールとして持てば、確認そのものの基盤は1つで済みます。逆に、保存年限を基盤側にハードコードしてしまうと、2本目の法律に対応するときに基盤の改修が必要になります。記録の保存設計の考え方は本人確認記録の保存要件で扱っています。

自社の位置を確かめる3つの質問

まず現在地を確定させてください。次の3つに答えられれば、対応計画の骨格はできます。

  • 自社の取引は、上のマップのどの法律の「場面」に当たるか(複数該当もある)
  • その法律の厳格化はいつ施行か。逆算すると方式選定・開発・テストの着手期限はいつか
  • 本人確認の実装は自前か、eKYCベンダー経由か。ベンダー経由なら対応方式の切り替えプランと費用を確認したか

組み込み方の選択肢(eKYCベンダー / デジタル認証アプリ / プラットフォーム事業者直接契約)はマイナンバーカード本人確認を自社サービスに組み込む方法は4つ、費用の考え方はeKYC導入費用の相場、犯収法本体の詳細は犯罪収益移転防止法の2027年改正にまとめています。本人確認方式の全体像を俯瞰するならeKYC完全マップ2026、どの記事から読むか迷う場合はeKYC記事の読み進め方ガイドが入口になります。

業法横断の棚卸しチェックリスト

複数の業法にまたがる可能性がある事業者向けに、社内で埋めておきたい項目をチェックリストにします。RFPや稟議資料の下書きとしてそのまま使える形にしてあります。

  • 自社の事業を「取引の場面」単位で洗い出したか(口座開設、回線契約、買取、チケット販売など)
  • 場面ごとに、該当する法律をすべて列挙したか(1場面に複数該当することがある)
  • 場面ごとに、確認の相手方は誰か(本人か、代理人か、法人か)を整理したか
  • 法律ごとの施行日を一覧化し、最も早い期限を特定したか
  • 現在の確認方法が画像送信・書類の写しに依存している箇所を特定したか
  • 記録の保存年限を法律ごとに確認したか(犯収法7年、金属盗対策法3年など)
  • 記録の保存年限をシステムの設定値として外出しできる設計になっているか
  • 対面窓口がある場合、IC読み取り機材の要否を確認したか
  • 届出・登録などの行政手続が必要な法律があるか、担当部門は決まっているか
  • eKYCベンダーを使っている場合、各法律への対応プランと切り替え費用を確認したか
  • 複数法律にまたがる場合、共通基盤で設計する方針が社内で合意されているか

このリストの前半(場面の洗い出しと法律の紐付け)は法務・コンプライアンス部門、後半(設計と費用)は開発・調達部門の担当になります。両方を1枚で持つことで、部門間の引き継ぎロスを減らせます。

まとめ

  • 本人確認義務は犯収法だけではありません。携帯・古物・金属くず・チケットなど、業法ごとに別の義務と別の施行時期があります
  • 2025年10月→2026年4月→2026年6月→2027年4月と、画像・書類ベースの確認が順番に締められていきます
  • 対象になる法律は1つとは限らず、中古スマホ買取のように1サービスが3本の法律にまたがることがあります
  • 要求される技術要素はIC読み取り・電子証明書・記録保存に共通化しており、基盤を1つ作れば複数業法に効きます
  • 共通化できないのは記録の保存年限と取引判定です。ここをパラメータとして外出しする設計にしてください
  • 複数の業法にまたがる場合こそ、個別対応ではなく共通基盤で設計するのがコスト面でも有利です

よくある質問

Q. 本人確認義務は犯収法だけですか?

犯収法だけではありません。携帯電話不正利用防止法(携帯キャリア・MVNO・レンタル携帯・IP電話・販売代理店)、古物営業法(古物商)、金属盗対策法(特定金属くず買受業)、チケット不正転売禁止法(興行主・チケット販売事業者)など、業種ごとに別の法律が本人確認を義務づけています。しかもそれぞれ施行時期が異なるため、自社が該当する法律をすべて洗い出す必要があります。

Q. 各法律の厳格化はいつ施行されますか?

2025年10月に古物営業法の運用強化(金属製品は1万円未満の取引でも相手方確認・記録が義務)、2026年4月に携帯電話不正利用防止法の改正施行(画像送信・写し送付による確認の一部廃止)、2026年6月1日に金属盗対策法の全面施行(届出制と本人確認・記録義務)、2027年4月1日に犯収法改正施行(非対面はJPKI原則一本化、対面もIC読み取り義務化)という順序です。

Q. 複数の法律の対象になることはありますか?

あります。たとえば中古スマホの買取を行う通信系サービスなら、中古品買取で古物営業法、回線契約で携帯電話不正利用防止法が関わり得ます。さらに買取額の支払いに資金移動を使えば犯収法も絡みます。1つのサービスに3本の法律が乗ることは珍しくないため、法律単位ではなく取引の場面単位で洗い出すのが実務的です。

Q. 法律ごとにシステムを作り分ける必要がありますか?

作り分ける必要はありません。2025〜2027年の各改正が要求している技術要素は、書類画像に頼らないIC読み取りまたは電子証明書(JPKI)による確認、確認記録の作成・保存、非対面での完結という点でほぼ共通しています。どの業法対応でも作るものはIC読み取り+検証+記録保存の基盤に収斂するため、1つの共通基盤で複数の業法に対応できます。

Q. 共通化できない部分は何ですか?

記録の保存年限と、確認が必要な取引の判定です。保存年限は犯収法が7年、金属盗対策法が3年というように法律ごとに異なります。取引の判定も「特定取引」「買受け」「回線契約」など場面の定義が法律ごとに違います。届出・登録などの行政手続も個別に必要です。これらは共通基盤の外側にパラメータや業務ルールとして切り出す設計にしてください。

Q. 携帯電話不正利用防止法への対応は犯収法対応に流用できますか?

方向性は同じです。携帯電話不正利用防止法の2026年4月改正は、画像送信・写し送付による確認を一部廃止してIC読み取り・公的個人認証へ寄せるもので、2027年4月の犯収法改正と同じ技術要素を求めています。先行する携帯側の対応は犯収法対応の予行演習にあたります。これから基盤を作るなら、最初から両方の要件を満たす設計にしておくのが効率的です。

Q. どこから手をつければよいですか?

3つの質問に答えるところからです。自社の取引はどの法律の「場面」に当たるか(複数該当もある)、その法律の厳格化はいつ施行で逆算すると着手期限はいつか、本人確認の実装は自前かeKYCベンダー経由か(ベンダー経由なら切り替えプランと費用を確認したか)。この3点が埋まれば、対応計画の骨格はできます。

主な参考資料: TRUSTDOCK 改正犯収法解説showcase 携帯電話不正利用防止法2026年改正京都府警 金属盗対策法の全面施行

TodoONada株式会社では、マイナンバーカード認証(JPKI・eKYC)を組み込んだWebサービス・スマホアプリの受託開発を行っています。犯収法・携帯電話不正利用防止法など業種ごとの本人確認要件の整理から着手でき、方式選定(JPKI・IC読取り・画像方式)から開発・運用までワンストップで支援します。デジタル庁「デジタル認証アプリ」の利用申請・審査対応も書類作成から指摘対応まで伴走します。料金の目安は認証機能組込みプラン150万円〜、認証込みアプリ開発プラン400万円〜、大規模・個別要件は1,000万円〜です。「うちはどの法律の対象で、いつまでに何を作るべきか」という棚卸し段階のご相談も、マイナンバーシステム導入支援またはお問い合わせからお気軽にどうぞ。


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